夕刊のフロント・ページを見て俄かには信じられなかった。アメリカ大統領選の民主党有力候補であるヒラリー・クリントン前国務長官が意外な発言をしたのである。もう少し日本に理解があると見ていた彼女が、突如日本に対して攻撃的なセリフを述べたのだ。日本が輸出を有利にするために為替を操作して円安相場に誘導していると指摘し、もし大統領に指名されれば断固たる措置をとると述べたのだ。更にアメリカにとって不利だとして協定成立直前の環太平洋経済連携協定(TPP)にも反対すると言い出した。
これまでこれほど日本に対して過激なコメントを述べたことがなかったクリントン氏が、不意に日本のみならず、中国やアジア諸国に対してもこういう高飛車な発言をするようなことがあっただろうか。彼女はこれらの国々に対して通貨の価値を下げることで人為的に商品を安く抑えてきたと強く非難した。そのうえで、不正な商慣行と戦うと述べて熱くなっている。一夜にしてこれまでの自身の見解をひっくり返したかのようである。
そこには思惑として今渦中にある大統領選の影響が色濃く表れているように思う。共和党のフロント・ランナーである不動産王ドナルド・トランプ氏が歯に衣着せず毒舌家ぶりを披露しているが、彼は日本や中国、メキシコを為替操作や不法移民と言い張ってやり玉に上げこき下ろしているのだ。日本は意図的に為替相場を操作しているわけではない。明らかにトランプ氏やクリントン氏には誤解があるが、それを公然と非難するのは、彼女に限って言えば、トランプ氏がそう言い続けて人気を保ち続けているからである。これまで静観していたクリントン氏も、トランプ氏のやり方を参考に日本攻撃を選挙戦術として取り入れたからではないだろうか。
それにしても、昨日のアメリカ上院軍事委員会公聴会で、アメリカ太平洋軍ハリス司令官が、辺野古の代替施設の完成について予定より2年も遅れていると、日本政府が彼らに伝えていないメッセージを一方的に公表したり、安倍首相のロシア訪問について懸念を表明したり、日米間のコミュニケーションに疑問を感じている。そうした日米間の抑圧していたわだかまりが鬱憤となってヒラリー・クリントン氏の強い対日発言になったとしたら、将来を展望して外務省が水面下で何とか手を打てないものだろうか。同盟国でありながら、南シナ海で軍事基地を作りつつある中国と同じ目で見られるのもどうも納得が行かない。
夕刻になって昨日行われたネバダ州共和党党員集会で、トランプ氏が勝ったことが分かった。この勢いだと、対日強硬発言を行う2人の争いになりそうだ。