1598.2011年9月28日(水) カネミ油症事件が引き摺る後遺症

 ほとんど忘れかけていた「カネミ油症事件」が起きたのは1968年である。ベトナム戦争真っ盛りだったので、事件は知っていたが、それほど強い関心は向かなかった。それが今日駒沢大学の清田義昭講師の講座で、事件を取り扱った「背負いし十字架」と題するビデオを観賞し、講師の解説を聞いた。その後に講師から感想を求められたので、私見を申し述べた。
 水俣病やイタイイタイ病については全国的に普く知られているが、カネミ油症はやや地味で、残念ながらそれほどの訴求力はないと思っていた。しかし、治療法も見つからず、補償も充分でないだけに余計に問題の根が深いと思う。患者に取り付いた菌は悪質で、はっきりした病名も治療法も解明されていない。九州地方、主に五島列島を中心にごく一部の地域で発生したせいもあり、また食用米糠油(高給白絞油)を製造、販売した加害者のカネミ倉庫が北九州のさほど大きくない企業のため充分な補償ができない。同時に公的補助もなされていないことが患者の負担を重くさせ、解決を長引かせ医学的にも病状解決の曙光が見えない状態にある。
 ビデオで症状の実態を伝えていたが、外見で判断できる吹き出物や肌が黒ずむ点ばかりでなく、より危険なのは内臓器官が破壊され、癌とか遺伝的な要素が残ることであり、認定患者を憂鬱にさせている。カネミ倉庫の製造工程でPCB、或いはPCDFが混入したために、カネミ油を食した人の身体に毒素が入り込んだと言われている。だが、国も県(長崎県)も患者に対して公的援助を行うことに消極的である。患者の中にはカネミ油症認定患者と認めてもらえない人が多い。これまで14,000人の申請に対して、僅か1,900人しか認定されていない。
 番組は2009年に九州朝日放送が制作したもので、地元の深刻な問題として捉え、これまでにも何本かのドキュメンタリー番組を作った。地方の人たちが被害者であるだけに、泣き寝入りする患者も多く、理不尽とは思いながら自分たちの不幸を諦めようとしている点が不憫でならない。問題は、これが子々孫々末代に至るまで同じ症状のDNAが遺伝する恐れはないのか。自分たちの子どもの身体に同じ症状が顕われるのを見て、悩んでいる親も多い。
 これはいま福島県を中心に外へ流れ出ている放射線物質が同じように子孫に遺伝しないのかという問題と同次元の話ではないかと思う。文明の進歩は、ある面では大きな福音をもたらしてくれたが、他方でとんでもない害毒を運んできてくれたものである。つくづく考えさせられた。

2011年9月28日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com