1606.2011年10月6日(木) なぜフィリピンでインチキ遺骨収集が行われたのか?

 まあ驚いた。呆れ返った。フィリピン各地で収集された旧日本兵の遺骨の中に、フィリピン人の人骨が混じっていたというとんでもない事件が発覚した。昨日もテレビニュースで伝えていたが、今朝の朝日も日経もこの事件にかなりのスペースを割いて詳しく伝えている。フィリピンで散華された太平洋戦争戦没者遺骨収集に関する想像もできない疑惑である。
 年々収骨数が減少して憂慮した厚労省が、民間団体に事業を委託して、その団体が現地で人骨を提供した現地の人たちに金を支払ったことが要因と見られている。昨年春にも問題になったが、同じ内容と理由で再び疑念が浮上した。ことがことだけにこのまま座視するわけにはいかないだろう。特に遺族にとっては許し難い屈辱的な事件である。
 遺骨収集事業は、卑しくも戦没された方々の遺骨を戦没地で探し収集して日本へ奉還しようという厚生労働省が取り扱う尊い国家事業である。それがいつの間にか厚労省の手から民間NPO団体へ移っていた。先ずこの点がどうも気になる。
 インターネットでWEBサイトを開いてみたら、本件に関する不満や非難が渦巻いていた。その中でも「脱藩浪士」とか、「江草乗」と名乗る人たちのブログにこの事業を請け負ったNPO「空援隊」に対する非難がぶつけられていた。どうもこのNPO団体の存在と理念が怪しい。このNPOのスタッフには本当に戦没者の英霊を敬う敬虔な気持ちがあったのだろうか。多分政治家かそれらしい人の口利きで厚労省へ入り込んできたのだろうと推測する。団体の事務局長はお寺の3代目だという。良い仕事ではないが仕様が無いからこの仕事に取り組んできたと傲慢な台詞をはき、およそ尊い国家事業、まして英霊に対する真摯な姿勢が見られない。登山家の野口健氏がここの理事であったことにはびっくりである。野口氏も巧みに広告塔として利用されたのではないか。この組織を厚労省に紹介した人物を調べてみることも大事ではないかと思う。
 それにしてもどうしてこんなお粗末なことになってしまったのだろうか。私自身中部太平洋地域で20年近くに亘り、旧厚生省の指導下に緊張感を持って遺骨収集事業に関わってきただけにとても他人事とは思えない。脱稿したばかりの「トラック島の日系大酋長が見せた大和魂と謎」なるエッセイもそもそも遺骨収集に関わった時に、知りあったアイザワ大酋長について書いたものだ。当時何度も遺骨収集団で一緒になった日本遺族会の水落敏栄さんも今や参議院議員として、遺族のために活動し、先般も国会で質問されていた。あの生一本の水落議員はどう思っているのだろう。
 この雑駁な事実をどう受け取ったらよいのだろう。こんな不祥事が起きて残念でたまらない。かつて、旧厚生省の監督指導の下で行われた遺骨収集に関して私なりの経験から言えば、今回のフィリピンの事業にNPO「空援隊」という組織が関与したこと自体理解できない。昨年度厚労省はこの「空援隊」に4,700万円を支払ったという。確かにそれなりに費用がかかることは分る。しかし、かつて国はもちろん費用は出すが、遺骨収集を手伝う団体はほとんどボランティア感覚だった。例えば、遺骨収集と言えば、中部太平洋地域では、厚生省を中心に日本遺族会、関係の戦友会、地域に所縁のある団体(南洋興発会社のOB親睦会「南興会」)、日本青年遺骨収集団(学生を主とするボランティア団体)、長野県山岳連盟(険しい岩山での収骨のため登山家の協力)等々、真剣に英霊を内地へ奉還するという崇高な気持ちが強かった。厚生省職員の中にも従軍経験や、士官学校出の戦争に関する専門家のような人たちが、献身的に取り組んでいた事業だった。時代の流れもあるかも知れないが、戦後66年が経過して事業そのものが風化しつつあることも大きく影響していると思う。
 30年前ごろの一時期、いつまで戦没者の遺骨収集事業を続けるのかということが話題になったことがあり、国会でも議論された。その時の結論は、この事業に時効はなく、すべての遺骨を収集した時、或いは戦没者の妻と子が全員亡くなった時点で終了と途方もない話があった。そのように期限もなく事業を予算化することに反対する意見がある中で、「賢明」な知恵者が考えた「概了」という言葉が生まれた。当時まだ元気だった遺族らの中止することは容できないとの声に配慮して、「終了」とは言わずに継続するとの意味合いを込めて「発明」した造語である。それほど神経質に取り扱っていた遺骨収集事業が、どうしてこうも杜撰な扱いをするようになったのだろうか。私自身も出席したことがある千鳥ヶ淵の戦没者墓苑の納骨式において、外国人の人骨が納骨されていたとは驚きであり、遺族の神経を逆撫でするものであると思う。遺族や関係者を愚弄するこんなやり方を黙認していること自体おかしい。
 遺骨収集団のお供で毎年サイパン島へご一緒した厚生省職員やご遺族、戦友会ら関係者の皆さんも今ではほとんど他界されてしまった。この椿事を冥界でどう嘆いておられることだろうか。
 さて、今日2つの大きなでき事があった。ひとつは、陸山会事件と言われる政治資金規正法違反で小沢一郎・民主党元代表の初公判である。小沢氏は全面的に否認したばかりか、厳しく検察を批判した。政治家であるにも関わらず世論に耳を傾けず、自己主張の繰り返しである。来年4月に予定される判決までいろいろ厳しい声が上がることだろう。
 もうひとつは、アメリカのコンピューター・ソフト会社「アップル」のスティーブ・ジョブス前CEOが56歳の若さで亡くなったことだ。現代のカリスマと言われ、アップルを創業し、マッキントッシュを発売し、スマートフォン、iPod、 iPhone、 iPad等々多くのアイディアを商品化し成功させた。多くの人々にありあまる希望を与え、ソフトバンクの孫正義氏の如きは「レオナルド・ダ・ヴィンチ」と例えた。言いえて妙である。現代のダ・ヴィンチの冥福を祈るばかりである。

2011年10月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com