20日原子力安全委員会から原発の防災対策の重点区域を拡大する案が示された。それによると現在計画中、或いは建設中の原発からの防災対策重点地域(EPZ)が半径8~10㎞から、緊急時防護措置準備区域(UPZ)約30㎞圏に拡大される。県内に東電柏崎・刈羽原発を抱える泉田裕彦・新潟県知事は県独自にその範囲を50㎞に拡大することを合理的と見ている。各自治体によってその判断はバラバラであるが、仮にこれがそのまま自治体で受け入れられると、対象は135市町村、人口は800万人近くに上る。原発稼動のためにこれだけ多くの人や自治体に迷惑をかける。これだって充分な避難距離でないかもしれない。もしそうなら、もっと多くの住民や自治体を惑わすことになる。
各自治体にとって「福島原発事故」を考えれば、避難地区設定は当然と思う一方で、電力会社にとってことは深刻である。
他方で、自主判断によって放射能から逃れようと避難した場合、賠償がどこまで認められるべきかとの問題も提起されている。同時に、津波発生の際福島第1原発の電源が失われてメルトダウンや水素爆発が起こったのは、5年前に1~6号機を電気ケーブルでつないで電源を融通しあう改良工事を一旦は検討しながら、技術的な障害を理由に見送っていたことが昨日判明した。専門家はこの工事さえしておけば、重大事故を防げた可能性があったと指摘した。先日は日本地震学会が地震予知について学会が強い発信をしなかった点を反省していたが、事故が起きてから反省しても所詮後の祭りである。
問題は後から反省しようが、安全のために想定以上の工事をしようが、はたまた自主避難をしようが、原発がある限りいかなる対策を講じようとも事故発生の可能性は残るわけである。今回の福島原発により、いかに大きな犠牲を払い、これからも継続して費用を支払おうとも、原発が存在する以上われわれはいつまた同じような事故で痛い目に遭うか分らない。もっと大きな事故が起きるのではないかとの不安と恐怖から逃れられない。
今更過去に起きた取り返しのつかない事故を悔やんでも仕様が無い。これからその不安から完全に逃れる術は、原発を廃止することしか考えられないのではないか。まだ、解決策が見出されないまま問題を大きくしている核廃棄物の処理だって、先延ばしにすればするほど益々問題解決を難しくしていく。
原発反対の声は以前に比べて強くなってきた。先日福島県議会では県内の原発廃止を決議した。この動きが全国的に広がることを願うばかりである。その一方で、相変わらず原発再稼動を主張する声や動きが衰えないのも事実である。経済界からは電力供給量が減少することによって経済活動にブレーキがかかるとの不満もある。電力会社にとってはこれまで投下した巨額の投資資金をこのまま回収できずに、廃炉にかかる費用の無駄を考えると稼動を中止したくない事情もあるだろう。ただ、言いたいのは、それでも自分や家族の生命を引き換えにしても経済発展、言い換えれば生活向上を希望するのだろうか。みんな自分のこととして本質を捉えていないような気がする。すべて他人事なのである。だから、大きな生命の危険を孕み巨額の費用がかかろうとも、100%完全とは言えない安全神話を信じて、原発を動かし続けるのだ。
政府は都合の悪いことはやらないだろうから、1度マス・メディアが世の中から原発がなくなった場合の電力供給のシミュレーションをやってみてはどうだろうか。そのうえで、なお生命より経済発展による生活向上を望む人が多いなら、それも止むを得まい。