1742.2012年2月19日(日) 「東京物語」のリメーク作品はダメなのか。

 月刊誌「選択」の「本に遭う」を毎号楽しく読んでいるが、今2月号の「『東京物語』への冒涜」を読んで実は一寸驚いた。毎号書いているのは、河谷史夫・元朝日編集委員で連載して146回になるので、すでにその鋭い批評と鑑識眼は定着している。朝日時代には名物コラム「素粒子」を担当執筆していた。それが今月号に限って言えば、「寅さんシリーズ」を撮った映画監督の山田洋次氏への呵責のない批判で、流石の山田氏も未熟児扱いでボロクソなのである。私もあまり映画を観る方ではないが、「寅さんシリーズ」はいくつか観て面白いし、山田監督は庶民の側から主人公を映像に撮る素晴らしい監督だと評価していたが、河谷氏はとにかく舌鋒鋭く山田映画をこき下ろし、その挙句に山田監督の人格批判までする有様に少々呆気にとられている。山田監督より一回り以上も若い後輩が、すでに実績を積み重ねた大先輩に対して、ここまでやるかと思えるほどその批判精神は強烈だ。

 そう言えば、河谷氏は朝日の書評で渡辺淳一氏の「失楽園」をこっぴどく論評して渡辺氏の怒りを買い、対決を迫られたが、逃げ回って話に応じようとしないと渡辺氏が不満を漏らしていた。また、6年前の「素粒子」では東京ディズニーランドで行われた浦安市の成人式を皮肉って、市長や教育長が連名で朝日社長に抗議文を送ったように毎度お騒がせの時限爆弾のようなお人でもある。

 その河谷氏は、山田監督が小津安二郎監督の最高傑作「東京物語」のリメーク作品を撮ると聞いて、天をも恐れぬ所業だと烈火のごとく怒っているのだ。氏によれば、敬愛できる人の作品は恐れ多くて映画作品なぞできないものだという。実際小津監督ですら愛読書、志賀直哉の「暗夜行路」の作品化を勧められたが断った。それが後日別の監督が作品化すると聞いて「天に唾する行為」と切って捨てたそうだ。

 河谷氏が山田監督にあまり良い印象を抱いていないらしいことは、渥美清の役どころを間違えていると考えている点からも推察できる。つまり、渥美清を「寅さん」にしてしまったことを問題にしている。渥美は平然と残忍な人殺しをするような役をできる俳優で、「寅さん」のような紙芝居に終わらせたのはもったいないとまで言っている。

 河谷氏は新派で山田監督が現在脚本と演出を担当している「東京物語」が出身の朝日新聞で高く評価されたこともお気に召さないらしく、山田監督がヒット作品「幸福の黄色いハンカチ」で最後のシーンに黄色いハンカチが風にはためく光景はいかにもあざといとまるっきりなのだ。

 では誰も名作のリメーク作品を作る資格はないのかというと、「東京物語」は小津監督を直接知っている吉田喜重監督ならできると言っている。この程度の説明では、一寸説得力はないと思うのだが。

 「寅さんシリーズ」はあれだけ話題を生んで、多くのファンを喜ばせてくれ、渥美清にフーテンの寅の愛称まで献上した。渥美清は、確かに悪役も演じ切ることはできたと思うが、彼にとってフーテンの寅の方が反って彼にとっては良かったと思うのだが・・・。 

 こう言っては河谷氏には申し訳ないが、山田監督に対して何か遺恨でもあるのではないかと思ってしまう。ここはぜひ山田監督の考えと反論を伺いたいところである。もっとも河谷氏の論評暦を知っていれば、山田監督が取り合わないだろう。或いは、ひょっとするとこれから話に尾ひれがついて、場外戦が始まるかもしれない。冷やかし気分でそれを願う一方で、泥仕合なんかにならないことも願っている。

2012年2月19日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com