1795.2012年4月12日(木) 日本の伝統文化は正しく伝えられているか?

 些細なことのようであるが、私にはとても看過できないことがある。現在観光ブームとか、観光立国とか、観光振興を現下の低迷する経済の補助的手段と捉えたり、「震災復興は観光振興で」と観光がなければ震災復興も成り立たないような空気を醸成する一面もある。私自身長い間観光業に関わってきたので、ある面では的を射ている点はあるし、気持ちが分からないこともない。しかし、どうも付け焼刃の意見には観光の本質を見落としているところがあり、どうも気になって仕方がない。

 一番気になるのは、国が観光業に「観光立国」という場を与えたのは、国が財政負担をしなくても観光に方向性さえ示せば観光振興がそのまま他産業に好影響を与え、日本経済全体が潤うと単純に考えている点である。すなわち国が観光にスポットを当てるジェスチャーさえ見せれば、資金を投入しなくても経済が好循環をして拡大的に発展すると考えているように見えることである。金をかけずに利を得るようなうまい話が現実に考えられていることがそもそも異常なのである。

 一昨年来書きかけて頓挫している拙稿「士農工商エージェント」は、この点をあからさまに暴いて指弾しようと考えていた。だが、一昨年の国の事業仕分け作業で、国の観光業に対する上から目線の蔑視ぶりがあまりにも酷いことに愕然として、また一から文章構成を考え直さざるを得なくなった。今改めて書き直すかどうか思案中である。

 政府の事業仕分けで分かったお上の考えでは、本当の観光立国は無理であることが明確になった。トンチンカンなことばかり言って観光の本質を知らない役人どもの鼻をいずれ明かしてやりたいと考えている。

 一番の問題は、日本の観光、日本の伝統文化の素晴らしさを外国人観光客に伝えたいという素朴な気持は良いが、国が上から下まで、民間観光業者も合せてどの程度日本文化を理解し、また啓蒙しようとしているのかという点にも疑問を感じることが多い。

 例えば、一昨年発行の共著「ここが知りたい 観光・都市・環境」(交通新聞社刊)でも指摘したが、日本の伝統では「左前」を表出しない傾向があるものだが、それが大都市の繁華街で恥ずかしげもなく点々と目に入ってくることである。意外に思われそうだが、ある有名日本蕎麦チェーン店の浅草店や中野坂上店の入り口の扉の建てつけや、皇族が宿泊したこともあるホテルの日本間の襖の建てつけが「左前」なのである。最近味噌のテレビCMでは、和服を着た男性が食事をするのに左手で箸を持っているのを見た。少なくとも和食の作法をPRするのに敢えて右手を封じて左手を出すこともないではないか。まったく無神経なのである。

 こんな状態で日本文化をPRするとはおこがましいと思う。これだから日本の伝統文化はすべてに左右どちらを優先しても良いような誤解を与えることになっているのではないだろうか。やはり日本伝統文化のしきたりや作法はきちんと教えるべきだし、日本観光に多少なりとも関わっている人たちは、仕事柄基本的な所作や作法ぐらいは習得しておくべきではないか。こんな間違った日本伝統文化を野放しにしておいて、日本の観光立国もあったものではないと思うのだが・・・・。

2012年4月12日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com