昨日は北朝鮮の長距離弾道弾ミサイルの打ち上げ、そして失敗でメディアは忙殺されていたようだった。しかし、その蔭で野田政権は関係閣僚会合で福井県の大飯原発3号機と4号機の再稼動について安全性を最終確認し、再稼動することが妥当だと判断した。その前日現地施設を見学した山田京都府知事、嘉田滋賀県知事らが早期稼動に反対の意見を述べたばかりである。関西電力の大株主である大阪市の橋下徹市長も現時点での再稼動については慎重であるべきと反対の意向を示していた。
にも関わらず枝野幸男経産相は、今日西川福井県知事に会い原発再稼動に協力してくれるよう要請した。西川知事は、即答を避け県議会の意見を聞いたうえで回答するとの返事だった。枝野大臣の一連の行動にも不信感を覚える。大臣は、福島事故が発生した当時、官房長官として最も情報を得やすい立場にあった。そして、昨夕の日経紙に発言メモが残されていたと記事に掲載された。震災の翌日に1号機で水素爆発を起こした際「(東京、茨城も)広域避難もそろそろ考えるべき」と事故直後から首都圏を含めた避難を政府が検討していた、その現場責任者で最も原発の怖さを知っている人物のひとりではないか。そういう人がどうして原発再開を急ぐのか。よく分からない。
先日ストレステストの結果、政府は安全性が確認されたとして再開に問題ないとしたが、この時点で政府の「再稼動ありき」が問題視されていた。そもそも福島第一原発の事故については、いまだ収束の見通しが立っていないうえに検証もまだ終わっていない。福島県の佐藤雄平知事も原発の早期再開には大いなる不満を漏らしている。しかも、野田首相は脱原発とまでは明言しなかったが、脱原発依存との考えを述べていた。経済界では電力を頼りにしている手前、電力の安定供給を求めることは理解できる。また、地元のおおい町が原発再稼動を望んでいることは、町の財政上の見地から理解できないこともない。しかし、まだまだ原発の安全性が担保されていない現在、国民は原発再稼動を不安視している。政府が「原発ありき」の下に、原発再稼動賛成派に推されて電力会社とタッグを組んで再開を判断するのは些か拙速に過ぎるのではないだろうか。
それにしてもわが国の国民世論の盛り上げ方と、世論形成方の何とへたくそなことか。国民世論はどうなのか、政府には国民世論をまとめる気なんてさらさらないようだし、福島原発事故発生直後はあれだけ国民世論に口煩かったマス・メディアは今やまったく知らんぷりである。これでは国論なんていつまで経っても駄目だし、政治家の胸三寸、官僚たちの論理だけでことはすべて進められる恐れがある。
それにしても枝野経産相の再稼動賛成発言は責任逃れも甚だしい。再稼動は電力不足を理由に「必要性が存在する」と述べたのである。この「必要性が存在する」とは大臣の判断で客観的な感想を述べただけではないか。言うなら「現状は電力が不足しているので、安全性を充分チェックして再開する」とはっきり国民の前で公表するべきではないか。言葉遊びをしている場合ではない。