昨日石原慎太郎・東京都知事が米国ワシントンで話した尖閣諸島を東京都が購入するという話が大きな波紋を呼んでいる。母校(湘南高校)の先輩がまたやってくれたかという思いである。知事のパフォーマンスにはどうも唐突な言い回しと強引な手法が多いので、とかく誤解されがちであるし、勇み足もある。
今度の知事の言い分は「尖閣諸島はこのまま置いておくとどうなるかわからない。中国が日本の実効支配を壊すため過激な運動をしている。ゆゆしき問題だ」と、政府が一向にこの領土問題の解決へ向けて動こうとしないのでしびれを切らしたと言わんばかりのコメントを発表した。この発言に対して中国政府は抑制的ではあるが、「古来中国の領土であり、中国は争いのない主権を有している」と従来と変らない中国の立場を表明した。
また厄介な外交問題に発展しかねない問題が浮上した。困ったことである。しかし、石原都知事が言うまでもなく、尖閣諸島が歴史的にも領土的にも日本固有の領土であることは疑う余地もない。この点を抑えたうえで、あまり外交関係に支障を来たさない言動を取るのが、政治家としての対応だと思う。
1884年に福岡県出身の古賀辰四郎氏が魚釣島を探検し、95年に明治政府が沖縄県の所轄として標杭を立て、日本領とすることを決定した。以降古賀氏が無償貸与を受ける認可を受け、これらの島で古賀氏がカツオブシ事業などを行い、最盛期には250人ほどが居住していた。太平洋戦争により1940年から人が住まなくなって無人島となったが、戦後米軍の占領下に置かれ、1972年の沖縄返還により日本へ返還された。かつて毛沢東国家主席は尖閣諸島が日本領土であることを認める発言をしたこともある。こういうはっきりした日本領土である経緯と証拠がありながら、中国が尖閣諸島を自国領と主張するのは、周辺海域に海底資源や豊富な漁場があることが判明したからである。覇権国家中国は経済的にゆとりができたせいもあって、1970年以降になって、強引に自国領土と主張し出したのだ。その言い分は、ソ連の不法な北方領土占領、実効支配と50歩100歩である。
この中国側の一方的な主張に対して、「尖閣諸島は古来の領土」と主張するだけで、何ら解決へ向けた手を打たなかったこれまでの政権に対して、タカ派の石原知事はいよいよ黙っていられなくなり行動に及んだというところだろう。領土問題は国レベルの問題であり、一自治体が国の領土帰属を云々すべき範疇にはない。しかも、実際東京都が買うとなるとその購入のための財源は、私たち都民の税金である。クリアすべき問題は山積している。
石原知事が事ここに及んで唐突に過激な発言をしたのは、尖閣問題に限らず、何事も自ら決められない今の政府のやり方に大いなる不満を感じたからだと思う。懸念されるのは、今後このようなタカ派的なパフォーマンスを見習う輩が次々と現われ出てこないとも言い切れない点である。
だからこそ、知事の気持ちは分からないでもないが、やはり国の外交は政府が行うべき責務だと思う。石原知事は直接行動を起こす前に、国に対して言うべきで、もし国がやらなければ、その時は東京都が実行すると担保を取ってから行動を起こすべきだと思う。
今回の発言も下手をすると大きな外交問題に発展する可能性を含んでいる。これがエスカレートして日中間にただならぬ対立の空気を醸成しては、これまで地道に外交関係を育んできた関係者や日中友好に献身的に努力をしてきた人々の行為を無にしてしまうのではないかと心配である。