あっという間の電撃的な幕引きだった。盲目の中国人人権活動家・陳光誠氏が北京市内の病院へ幽閉されたような不審な動きから、一転して陳氏はアメリカへ留学することになった。どうもその急転直下の事態解決の裏には、双方に外からは窺い知れない駆け引きがあったのではないかと思える。
一昨日の本欄にも取り上げたように、陳氏が本人の希望とは異なり保護下にあった北京のアメリカ大使館から市内の病院へ入院させられたことが、問題をより複雑にして米中間の大きな外交問題に発展しかねない状態になった。とりわけアメリカ議会では陳氏の言葉が携帯電話を通して公聴会会場に伝えられる異例の議会証言が行われた。解決には相当な時間がかかるのではないかと思われた。それが見事なまでの電光石火の早業だった。
現在やや人気が翳りがちのオバマ政権にとっては、人権問題を軽視したとアメリカ国民から批判されることは最も避けたいことであり、不本意なことでもある。米中戦略・経済対話に参加したクリントン国務長官が中国滞在中に何とか問題を解決したかった。そこでアメリカはいかなる策を弄したのか、またどんな裏取引が講じられていたのか、想像することはできないが、米中双方にとって何とか受け入れられる妥協点を見出すことができたのだと思う。
仮にクリントン長官が問題未解決のまま中国から帰国すれば、米中経済協力を優先し人権問題を後回しにしたと批判されるのは必至だった。中国にしても事態がこじれれば、負担は膨らむばかりで何とか早めに事態を収めたいとの思惑があった。それが中国政府にとっては過去に見られなかった柔軟な対応を取らせることになったのである。中国政府としては、一旦大使館を出た陳氏を再びアメリカへ引き渡すための理由が必要だった。主権が絡む問題でアメリカに譲歩したとの印象は与えたくない。中国政府は陳氏を亡命ではなく、普通の市民として自由意志に任せたとの行動が最も無難だとの考えに落ち着いた。
尤もアメリカは今後も引き続き中国の民主化政策を注目していくと言い、中国は中国でアメリカが他国の政策に口出しするのは、内政干渉であるとアメリカを非難している。
いくら口で大法螺を吹いても、これだけ国際的に注目されるようになった陳氏を邪険には扱えなくなった中国としては、国内に身柄を拘束するより氏を自由にさせて中国の取った対応が反人権ではないと受け取ってもらえる方がよりメリットがあると考えたのではないか。
ただし、陳氏の願う通り家族ともども身柄を解放され、アメリカへ渡ったとしても中国としては掌中の玉をみすみすアメリカへ手渡してしまうわけであり、当然中国政府としては陳氏に無理難題を押し付け、氏から何らかの担保を取るような密約を交わしたと勘ぐられても致し方あるまい。その点でこれまで通り陳氏が、国際社会へ向けて中国政府の非民主化政策を告発し続けられるだろうか、何とも言えない。
今日は「こどもの日」である。敢えて言えば国内の全原発が止まる日でもある。日本国内にある原発50基のうち唯一稼動していた北海道電力の泊原発が今晩11時にスイッチオフされ、明日午前2時に稼動が止まる。先日来大飯原発の再稼動問題がクローズアップされたが、反対の声に押されて、国内では遂に1基も稼動しないことになってしまった。今こそ原発をどうすべきか国民的見地から議論を行うべきであるが、賛成派と反対派がそれぞれ一方的に自論を述べるだけで大所高所から今後のわが国のエネルギー政策を真剣に検討しようとの声が盛り上がってこない。
夏の電力消費期間の節電の話ばかり盛り上がっているが、肝心要の供給の話がなされない。最も大事な時だというのに、政府を始めメディア、経済団体、電力会社、教育機関等々でも一向に議論をまとめようとの声が表面化しない。将来的に電力をどう供給していくのか。政府は目の前に消費増税がぶら下がり、とても電力問題まで頭が回らないようだ。情けない。
さて、今日北アルプスで8人の登山者が亡くなった。白馬岳で北九州の6人、爺ケ岳で62歳の大阪の女性単独行登山者、涸沢岳で福岡の6人グループの1人が生命を落とした。登山者の全員が60歳以上で、登山歴が豊富らしい。その彼等がどうにも軽率な行動をとったとしか思えない。雪山へ入山するのに単独行とか、薄着とか、常識では考えられない行動をとった。白馬岳グループの如きは、6人中4人が医師で1人は獣医師である。最高齢は78歳だという。死因は低体温症である。これらの山には私も学生時代に登ったことがあるが、今回は天候が変わりやすい春山のことであり、荒れれば危険であることぐらい、ヒマラヤやキリマンジャロなど登山経験豊かな彼らにとっては分かりそうなものである。年齢的にも充分常識とか分別もある登山をよく知る人たちが、これほど安易に悪天候の下で雪山へ入っていく非常識はとても理解しがたい。現代社会は若者に負けず、いい年をした人生のベテランの判断力をもブレーキを効かなくさせてしまうのだろうか。気の毒だが、とても同情する気持ちになれない。むしろ嘆かわしい。