橋下徹・大阪市長率いる大阪維新の会の過激な行動が、良い意味でも悪い意味でも大きな話題を呼んでいる。維新政治塾を開講し、次の総選挙に数多くの候補者を立て国政へ自分たちの考えを反映させようとしている。その一方で、国民の間には国政が停滞したまま一向にぱっとしない閉塞状況に風穴を開ける期待感もある。
しかし、現在地元大阪市で実行されようとしている政策の中には、はてなと首を傾げたくなるようなパフォーマンスも見られる。これまでにも橋下市政にはやや過激と思われる「命令」や方針があった。ぬるま湯に浸かった「なあなあ」の労使関係、赤字垂れ流しの市営バスの民営化、職員が子どもに見せつけた刺青、等々の改革と是正はほどほどに評価されている。だが、公立学校の君が代斉唱や、ナチ・ドイツの秘密組織や、旧ソ連のKGBもどきの監視、特に国歌を歌わなかった教職員に対する陰険な監視や、市役所職員のメール交信記録のチェックにはおぞましさと恐怖感すら憶える。
とりわけ橋下市長は教育問題に強い関心を寄せている。それがつい有無を言わせぬ強い発言になり、教育委員会に対して職権乱用を思わせる行動を取り、カチンときた教育長が辞表を提出する騒ぎとなったのもつい最近のことである。
その「大阪維新の会」大阪市議団が市議会に提案する予定だった「家庭教育支援条例案」に、子どもの発達障害の原因を親の愛情不足と決め付けたり、伝統的子育てが予防できるとする記述があり、保護者で作る団体らが「偏見を助長する」と提案見送りを要請し、市議団は謝罪し白紙撤回を決めた。これらについては、専門家からも医学的に発達障害と愛情とは関係ないとして、条例が成立すれば親がいわれのない差別を受けると批判的だった。
これについて橋下市長は、「発達障害を抱える子を持つ母が愛情欠如しているというのは違う」と市議団とは違う見解を出してすり抜けようとしているが、梯子を外された格好の市議団にとっては面白くないだろう。自分に都合の良いことは声を大にして叫びまわるが、間違ったり都合が悪くなると他人を踏み台にしても逃げようとする橋下市長の本心が垣間見えた感じである。
もうひとつ今、物議を醸している大阪市音楽団の今年度内の廃止問題がある。市は年間4億3千万円の赤字団体を苦しい財政事情から今年度限りで解散すると一方的に伝えた。突然無駄な経費として槍玉に挙げられた40名近い楽団員にとっては時間的な猶予を与えられず、一刀両断の下に排除しようとする行動規範はあまりにも情けに欠け、楽団にも戸惑いは隠せない。外部からはよく分からない点もあるが、聞けば年間100回近いコンサートをこなし、学校や公の施設で奉仕活動を行っているらしい。市長が解散したいとの主旨は分からないでもないが、どうも漸進的な柔らかい手段を取らず、市政財務の回復のために予算を一発で切っている。私立幼稚園、小中高に対する補助金も打ち切るそうで、関係者にかなり波紋を投げかけている。
国を良くしようと国政へ進出する御仁が、バッタバッタと人を切り倒すのはいかがなものだろうか。もう少しやり方を考えた方が良いのではないかと思うのだが・・・。
さて、今朝新聞の死亡公告欄に懐かしい人の名前を見つけた。梶木隆一・東京外国語大学名誉教授である。享年101歳だそうである。我々世代の受験生がラジオで受験英語を学んだ時の英語講師である。日本中の受験生が聞き漏らすまいと神経を集中させた講師の一人である。確か♪大学祝典序曲♪で始まる旺文社提供の受験講座の英語だった。大学に入ってからはとんとご無沙汰してしまったが、受験勉強ではほぼ毎日のように真剣にラジオに耳を傾けていたものだった。もう半世紀以上も昔のことだ。個人的なお付き合いはなかったが、あの梶木先生の訃報を知るとは、受験の苦しさとともに懐かしさも一入である。