民主党は東京地裁で無罪判決(求刑禁固3年)となった小沢一郎・民主党元代表の党員資格停止処分の解除を昨日決定した。政治資金規正法違反で検察審査会によって追起訴されたことを受け、昨年2月民主党は小沢氏の党員停止処分を課していた。
法律上これで小沢氏の容疑は一応晴れて刑事被告人の衣を脱ぐことになった。ただ、検察官役を果たした指定弁護士は、無罪判決に対して控訴するか否かをまだ決めかねている。場合によっては小沢氏がまた刑事被告人になる可能性もあるわけである。そのタイムリミットは明日10日である。
潔白が最終的に確定しないのに、民主党はなぜこの時点で処分解除を急ぐ必要があるのだろうか。しかも元秘書の虚偽記載を認め、小沢氏がその報告を受けていたと認定しながら、ただ共謀の証拠はないとの一点だけで無罪判決が下されたのだ。これでは誰が考えても限りなく黒に近いグレイであろう。野党側からも、元秘書による政治資金収支報告書への虚偽記載が認定されたことによって、小沢氏の監督責任は免れないと指摘されている。更にその疑惑に対して説明責任を果たすべきであり、また無実というのであれば、証人喚問にも積極的に応じるべきであると追求されている。
民主党幹事会が処分の解除を急いだ理由は、小沢グループの党幹部が小沢復権を策し、消費増税を止めることを口実にグループの結束を固めて党内で主導権を握ろうと画策した策略のひとつである。強く消費増税反対を主張する小沢氏とそのグループは、衆議院議席過半数240のうち、実に1/3の約80人を数える党内最大派閥である。参議院にしても過半数121議席のうち、1/4の約30人を占めている。小沢グループの賛成、或いは野党との合意形成が得られなければ、政府にとって法律一つだって国会を通過しない厳しい現実がある。党内幹事会を主導的にリードして処分解除を決めたのは、輿石東幹事長である。彼もまた小沢氏の息がかかっている。
結局すべてが内輪の論理でことが運ばれているのである。これに対して小沢氏本人がメディアに自らの考えを述べるでもなし、周囲の親しい同士に礼を言っているだけである。国民には何も語らず、小沢氏は一体誰のために政治活動を行っているのか。
と、ここまで書いてきたところ、慌しく「指定弁護人、小沢元代表無罪判決に対して控訴へ」とのニュース発表があった。これで小沢氏は再び刑事被告人へ逆戻りである。だが、昨日決めたばかりの小沢氏の党員資格停止処分解除はそのまま承認され、小沢氏は一民主党員として活動することができる。しかし、これで国民は果たして納得することができるだろうか? 刑事被告人がのうのうと国会の議席に座り、背後で操って、上手くすると次の党代表選で勝利を収めて、日本国総理大臣の座に就くことだって考えられないわけではない。考えたくもないが、刑事被告人が総理大臣になることだってあり得るのだ。
指定弁護士3人はそれぞれ控訴すべきか否か、悩みに悩んだようだ。協議の末、東京地裁の事実認定には誤認があると最終的に判断し、控訴審では有罪判決を得られる見込みがあることと、民意を受けた強制起訴であることなどを総合的に考慮して、控訴審で改めて判断を求めたとみられている。
とにかく、これで再び党内にも政党間にも軋轢が生まれ、政治は益々停滞し、世界の中で日本は置いていかれるのである。この結果責任は政治家が取ってくれるのだろうか。