先日フルブライト一期生である山本澄子さんから、今日千駄ヶ谷の津田塾大学津田ホールで開催される「日米フルブライト交流プログラム60周年記念公開シンポジウム」の基調講演に、高校先輩のノーベル賞受賞者・根岸英一博士が話されるから聴講されてはどうかとご案内をいただいた。
いつもながら根岸博士は難解な化学について壺を押さえて話され、とりわけ難しい有機化合物についてパワーポイントを使って分かりやすく説明された。尤もそれでも理解というにはほど遠い。
昨年11月の母校創立90周年記念式典でもお聞きした「世界でノーベル賞受賞は1千万人に一人の確率なので難しいように思われるが、10の7乗分の1の競争、つまり10人のセレクションに7回勝ち抜けば達成できる」とのお話を丁寧に説明された。小中高の学校教育で10番以内に入っていれば3回は勝ち上がったことになるとして、かつて住んでいた神奈川県大和市と湘南高校の教育と教育環境が後年自信を得たきっかけになったと話された。帝人に入社した時、当時の大屋晋三社長から「若者よ!海外へ出よ!」と励まされたことが、外へ目を向ける大きなキッカケになったと大屋社長に感謝していた。
人生における根岸流幸せの意味についても話された。そのための4つの要件として、①健康、②家庭、③職業(自分が得た以上のものを仕事を通じて社会へ還元する)、④趣味、等々を挙げ自分の体験から具体的に説かれた。今日の講演の中で、意外に思ったのは「二酸化炭素はリサイクルできる」との話だった。専門家の中でもまだ首を傾げる人が多い中で、自信を持って断言しておられた。
その後のシンポジウムでは、パネリストに根岸博士と駐日アメリカ大使館ディビッドソン広報・文化交流担当公使に交って3人の日米の若者が加わり、石澤靖治・学習院大学学長の司会進行により「若者は発言する。あなたはどう考える?」というテーマで話し合われた。今日出席された若者は積極的に発言し、自論を発信しているが、一般的に近年日本の若者が内向きとなり、海外へも行かなくなっている現状とその傾向に対して、いくつかの意見が出された。デェビッドソン公使も日本人留学生が減少気味と憂慮され、アメリカの大学への留学生を増やすことがひとつの役割だとも述べておられた。昨年3月に初めて根岸博士と話し合った時にも、博士は若い頃海外へ行くべきだとしきりに強調され、私と妙に気持ちが通じ合った。現代は少子高齢化社会が進み、損得勘定も強くなって自分に利がないと取り組もうとしないといい、同時に若者たちが何となく忙しくなっている現状は、若者だけの責任に帰すわけにはいかないとの話も出た。
昨晩ペン懇親会の後東京會舘を出ようとして、60年記念パーティから帰ってこられた山本さんにお会いしたら、パーティには天皇・皇后両陛下もご臨席されたと話されたが、根岸博士も10年ごとの記念式典に毎度両陛下が出席されると感激して話しておられた。
今日フルブライト交流基金の創設者である故ウィリアム・フルブライト・元上院議員(1905~95)夫人が会場で紹介された。世界でも珍しいほど多彩な人材を輩出し、世に文化的貢献と福音をもたらした事業は他に類を見ないと思う。その成功の秘密のほんの一面だが、今日のシンポジウムを通して垣間見ることができたように思う。