来週から中東へ出かける。その中東・アフリカの中で質的には状況はやや異なるが、世界の注目を集めるような社会情勢の変容と混乱がある。
そのひとつはエジプトの大統領選挙である。エジプトでは、昨春「プラハの春」ならぬ」「ラブの春」として30年間君臨したムバラク政権が倒れ、早い時期に民主国家の誕生が期待されたが、1年以上を経過して未だ民主的政治機構と統治が確立されていない。その最大の課題であるポスト・ムバラクのリーダーがまだ決まらないからである。先週漸く大統領選挙が実施されたが、過半数を制した候補者が見当たらず、上位二人による決戦投票が来月半ばに実施されることになった。
第1回の投票で1位となったのが、穏健派イスラム団体ムスリム同砲団が推すムハンマド・ムルシ氏で、2位がアフマド・シャフィーク氏である。このシャフィーク氏というのが中々の曲者で、実は失脚した晩年のムバラク政権下で首相を務めていた。本来ならムバラク氏同様に追放処分を受けて当然の人物であると思う。今更どの面下げてと言いたいような御仁である。しかも元空軍司令官でもあった、れっきとした軍幹部である。ムルシ氏とシャフィーク氏の差は僅差であり、イスラム宗派と軍部との勢力争いに発展することもあり得る。
仮に正当な国民の総選挙によって選ばれた大統領ということになっても、かたやイスラム教国家としての力が強まるか、こなた似非軍事政権になるかという民主化とはかけ離れた政権になりそうである。期待した民主国家への道は極めて厳しいものと言わざるを得ない。あれほどムバラクはもう堪えきれない、我慢の限界であるとばかり、一旦は民主化運動の流れの中で悪名高き独裁者を追放しても、とどのつまりは宗教指導者か、ムバラク継承者の軍人になってしまうのではあまりにも寂しい。早晩周辺国にもその影響は及んでくるのではないだろうか。
国民の半数以上が新しい国を背負う政治家に期待しないというのだから、国家再建は道遠しである。実際第1回選挙の投票率は46.2%で半分の50%にも満たない。いろいろな要因はあるだろうが、まだ民主国家、また国民としての精神が成熟していないということだろうか。これでは新政権が発足しても早晩新たなトラブルが起きそうな気がする。
もうひとつの懸念材料は、旅行先ヨルダンの北隣シリアの国内情勢が益々流動的になり、一層危険な様相を帯びてきたことである。
27日にホウラで起きた100人以上の住民虐殺事件を憂慮して、即時首都ダマスカス入りしたアナン前国連事務総長はアサド大統領と会い、一時的停戦などの調停案を守るよう強く説得する。これまでシリアの立場を擁護していたロシアと中国の中でもロシアは、虐殺に関与したのは政府側との西欧側の言い分に若干譲歩する姿勢を示した。しかし、シリア国内に利権を持ち、シリア内の体制が代ることを危惧するロシアと中国は、基本的には相変わらずアサド政権を支持する考えを崩していない。他国がシリアに物申すのは、内政干渉だとの主張を繰り返している。これまで散々他国への内政干渉を行ってきた両国がよくそんなことを言えるものだ。イスラム教内宗派の対立もあって西隣国レバノンにも火種が燻んできた。これからシリア内の対立がレバノンへ波及しないよう望んでいる。
まかり間違っても旅行先ヨルダンへ火の粉が飛んでこないことを祈るや切である。