先日NHK・BSプレミアム番組「知られざる大英博物館-古代ギリシャ」を観ていて考えさせられた。これまで抱いていた古代ギリシャ時代の芸術品のイメージと知識が覆されるようなストーリーが、抜き打ち的に紹介され、思わずう~んと唸ってしまったのである。古代美術史上、また建築学史上も思いがけない新説?の出現に関係者が戸惑っていることは間違いあるまい。
その新説とは何か? ひとつは、古代ギリシャ建築は当たり前の如く「白色」が基調と考えられ、彫刻を始めとして建造物に飾られるファサードは「白色」と考えられていた。しかし、、実際には色彩豊かなデザインが施されていたという思いがけない話なのである。ギリシャ、特にエーゲ海は「白色」がイメージとしてぴったりである。ミコノス島のようにすべての家の外壁が白一色のようなところもある。アクロポリスのパルテノン神殿から持ち去られ、大英博物館に保存されているファサードは、従来「白色」と信じられていたが、カラーフルな色彩が塗りつけられていたという、大英博物館学芸員の解説を聴いて俄かには信じ難い思いである。
その新説は科学的根拠に基づくものだとして、大英博物館が開発した特殊なカメラを古代ギリシャの白い彫刻物に当てたところ、色彩を感知したのだという。さらに驚くべきは、19世紀ヴィクトリア女王が結婚式で身につけた白色のウェディング・ドレスが素晴らしく憧れの的となった時代性に鑑みて、潔癖で純情、無垢な「白色」への無上の憧れが美化され、白色への場違いの思い込みが、価値ある物を別の色から白色へ変える誤った思想が蔓延ったようである。大英博物館では着色された芸術品はみな白色へ染め替えられたという。このこと自体が、今では大英博物館のスキャンダルとも言われている。
こうなるとあの気高いパルテノン神殿も、実物よりも白色に変えられたファサードの方が反って、価値があるように思えるから不思議である。ギリシャ時代の芸術品の価値を頭の中でリセットしないといけない。今まで、大英博物館やギリシャで実物を見る度に、目の前の白い彫刻に頭を垂れ感慨深く受け止めていたが、これからは頭を切り替えないといけない。
もうひとつは、古代ギリシャ人の円盤投げで知られる「ディスク・ボロス」の彫刻は、12体?ほど現存しているようだが、この頭の向きが間違っているという。頭部だけ後から付け足した結果だという。しかも、この彫刻は間違ったまま前回1948年開催のロンドン・オリンピックの宣伝ポスターにも使われていた。
論語に「過ちては改むるに憚ること勿れ」という言葉があるが、これだけ世界的に著名で価値ある芸術品のイメージがいとも簡単に変えさせられるのは、真実とはいえ、些か抵抗を感じないわけにいかない。
ギリシャとしては、自分たちの遺産である古代芸術品を、勝手に奪い取った国が一方的に価値の変更を行うことに内心穏やかではないのではないかと思う。
イギリスは思い切った調査を行う前にギリシャに対してどれだけ説明し、了解を得たのだろうか。他人事ながら誰もが気になるところだ。