内戦中のシリアで日本人女性ジャーナリストが死亡したとのニュースが今日伝えられた。最近になって激しい戦いを続けているシリア第2の都市アレッポで、山梨県出身の山本美香さんという45歳の記者が銃弾を浴びて死亡した。ジャパン・プレスという組織に所属し、同僚とシリアに入り、戦闘を取材中に政府軍兵士から銃撃を受けて亡くなった。大変お気の毒である。彼女の存在はまったく知らなかったが、一部ではその能力は高く買われていて、一時日本テレビ系の番組でキャスターを務めたり、2003年にはボーン・上田記念国際記者賞特別賞を受章している。昨年の政府の事業仕分けで質問者にもなっていたようだ。
私自身の浅い戦場取材経験から考えても、戦場取材は危険が多く、敏捷な行動力と判断力を求められ、どうしても男だけにしかできないと言われていたが、彼女は女性とか、子どもたち弱者の視線から戦争の現場を取材したいと女だてらに勇敢に活動を続けていたようだ。有能な人を失ったものである。
シリアの内戦は、政府軍と反政府軍の対立がエスカレートして休戦の見通しがまったく立たなくなっている。4月以来休戦交渉をまとめるため現地に入っていた国連休戦監視団が、休戦のメドが立たず、危険が身辺に押し寄せてきたため撤収する有様で、団員らは昨日事務所を閉鎖して母国へ引き上げたばかりだった。
この後、シリアはどうなるのだろうか。このまま双方が対立を激化させたまま戦闘だけがエスカレートするようだと、結局国民は一層死の危険に晒されたままである。市街でゲリラ戦になると住民が巻き込まれるようになり、双方合意の休戦へ持ち込む以外に悪化した事態は解決しないと思う。その点でも、現状は国連安保理がシリア制裁決議を成立させ一気に事態を打開しようと思っても、毎度常任理事国、ロシアと中国の反対で実行できず、休戦へ持ち込むことができない状況にある。ロシアと中国の責任は重いと言わざるを得ない。
それにしても、アサド政権は反政府軍に対して他国から援助を受けたテロ集団だと喝破しているが、だからと言って丸腰の国民を武装兵士が残虐に殺戮し続けるというのでは、事態を悪化させるばかりでいずれ国民を巻き添えにして国家を滅ぼしてしまう。墓穴を掘ることになるのではないか。医師として人を救うことを徹底して頭に叩き込まれている筈のアサド大統領が、非業な手段で自国民を平気で殺害できる野蛮な原動力は、一体いかなる思考回路に根ざしているのだろうか。この独裁者の責任は極めて重いと思う。