2006.2012年11月9日(金) 東京新聞のコラム「筆洗」と文化批評「大波小波」

 一昨日ノーベル賞受賞者・根岸英一博士の義兄である、鈴木健次・大正大名誉教授にお会いした際、小中陽太郎さんから送ってもらった小中さんの近書「翔べよ 源内」について書かれた東京新聞夕刊のコラム「筆洗」のコピーを差し上げた。鈴木先生と小中さんは東大同期生で、同時にNHKの同期生でもある。そのコラムを鈴木さんにお渡ししたことを小中さんにお伝えしたところ、東京新聞にはその他に文化面の匿名批評「大波小波」があって、それにまつわる裏話が書かれ、伝統ある文化批評であると紹介した小文をメールで送っていただいた。

 「大波小波」は東京新聞の前身・都新聞創立以来、延々80年に亘る伝統があり、当初から「痛烈骨を刺す時評」で波紋を投げると宣言したそうであり、芥川龍之介の自殺が社会的に興味本位に取り上げられたことに対して、第1回で「個人の私生活を暴き、巧みに社会問題化しているが、それは他人の迷惑など構わぬゴシップ的興味に過ぎぬ」と手厳しい。その間多くの文人が酒の肴にさせられたり、辛らつなコメントに晒されたり、内輪同士の知らぬ顔で攻撃したり攻撃されたり、話題は尽きなかったようである。かの直木賞の生みの親、直木三十五にしても第2回で「批評ではなくご託宣だ」とけなされている。これが原因ではないが、直木は翌年43歳で亡くなったそうである。

 匿名で青野季吉、尾崎士郎、大宅壮一、舟橋聖一氏ら錚々たる文豪が書いていたというからすごい。槍玉に挙げられた文士もまさに綺羅星の如くで、確かに骨太い批評に溢れていたのではないかと推察される。

 その小中さんが私のゼミ恩師の追悼文集で、若気の至りで辞表を提出したり、チェコ留学がダメになったり、若き心の悩みを書き綴った拙文について「身につまされる青春だね。後輩でコンプライアンスに飛ばされた男に読ませよう」と仰っていただいたうえに、今度その方をご紹介してくれるという有難いメールをいただいた。

 ドナルド・キーンさんのお話を聞くことができる26日のペンの日の集まりでお会いできると思う。

 さて、昨日中国共産党全国大会初日に胡錦濤主席(国家主席)が活動報告で、今後の中国の進むべき方向、思想、ビジョン等を述べた。その中で気になるのは、「海洋権益を断固守り、海洋強国を建設する」を強調したことである。周辺諸国とのトラブルをものともせず、公海、更には他国領海へ積極的な進出をしようというのである。それを敢えて国家の政策として打ち出すところに、覇権国家中国の一刻も早く大国たらんとする焦りと好戦的なスタンスを感じないわけにはいかない。今では日本との尖閣諸島の他にも、フィリピンとベトナムとの間で軋轢を生じている。

 今後この中国の覇権路線は益々エスカレートしていくだろうが、中国の内部事情の判り難い点は、中国の近未来の国家戦略の柱である海洋進出について次期主席の習近平氏ではなく、今大会で主席の座を去ろうとする胡錦濤主席が内外へ向けて力説したことであり、他の国では有り得ないことであり極めて異常なことではないだろうか。通常は一旦身を退くことを公にしたら、「老兵はただ消え去るのみ」と静かに表舞台から去るのが常識的なシナリオだ。この辺に胡主席の院政の影を感じざるを得ない。更に言えば、すでに10年前に主席を降り引退した筈の江沢民氏が、ひな壇の胡錦濤主席の隣席に座っているのも、不思議と言えば不思議な光景である。

 相変わらずよく判らない国である。

2012年11月9日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com