今日は「ペンの日」である。昭和10年の今日日本ペンクラブが発足した。朝からの雨模様が午後に入って段々激しくなり、夕方「ペンの日」懇親会場の東京会館へ出かける頃には、本降りとなってきた。キャンセルする人も出るのではないかと心配していたが、幸いにも500人近い会員、同伴者が出席していたのではないかと思う。いつもの会場より広い9階の大宴会場に多くの人が集まった。顔見知りの人も多い。開会前に小中陽太郎さんから先日送っていただいたご著書「翔べよ源内」が、面白かったと感想をお話したところ、得たりと「面白いでしょう」と自信たっぷりの様子だった。手応えを感じておられるのではないだろうか。源内に肖って数日前にも長崎に行かれたという。
序に現在取りかかったばかりのドキュメント「トラック島の日系大酋長の大和魂」について、私自身の第一人称で書くべきか、大酋長を主人公に仕立てて私を別名で第三人称スタイルで書くべきか、悩みをお話しして結局後者で書いてみようということに落ち着いた。
さて、「ペンの日」懇親会は、会場の照明を消した中で、松尾けいさんと仰る女性篠笛奏者が平安衣装を装いながら篠笛を奏でて古式ゆかしく登場された。その後浅田次郎会長の挨拶に続いて、ゲスト・スピーカーには日本国籍を獲得した日本文学者ドナルド・キーンさんが15分間壇上で椅子に座りながら話された。
今年90歳になられるキーンさんは、日本文学との関わりを自身の体験を含めて話された。日本文学に造詣の深いキーンさんでも初めて日本文学に接したのは、1940年18歳の時「源氏物語」に出会った時で、その後戦争となり、外国で日本文学の存在を知ったのは戦後になってからだった。その当時英訳書は火野葦平の「月と兵隊」ただ一冊だけだったそうである。
57年前初めて日本で開かれた国際ペン大会に出席した時のエピソードもいくつか話された。9月で台風シーズンだったために、外国人の参加者の中には建物の崩壊を心配する人もいたが、キーンさんは世界で最も古い木造建築物(法隆寺)が現存するくらいだから大丈夫だと話した裏話をユーモアを交えて話された。
今までにも20歳代、30歳代それぞれに幸せと感じるところがあったが、90歳となり日本人になった今が一番幸せだと、元気の良いところを見せておられた。とにかく前向きな方だと感動すら憶えた。少しでも肖りたいと思う。素晴らしい話を直に聞けて短い間だったが充実した時を過ごすことができた。