今日駒沢大で今年度最終回の講義に出席した。いつも清田義昭講師が精選される社会的問題作品のビデオを鑑賞するが、今日鑑賞したのはNHK教育テレビの「永山則夫100時間の告白」で、副題として「封印された精神鑑定の真実」が付されていた。1時間半もので、80分の授業では時間不足なので、いつもより早めにスタートさせたいとの清田講師の考えもあり、普段より早く出かけた。
永山則夫とは昭和43年に世間を恐怖に陥れたあの連続殺人犯である。何の縁もない4人の市民を殺害した少年死刑囚として世間を騒がせた、連続殺人事件犯人・永山則夫の精神鑑定書を書いた石川義博・精神科医師が、犯人とのけれんみのない会話を録音した49巻・100時間の記録のダイジェストである。今まで寡聞にして知らなかった内容だった。石川医師が犯人永山に面会して長きに亘って録音すると同時に、永山の母親からも話を聞いて複雑で壊れた家庭環境、肉親の愛情に恵まれなかった少年時代を描くことによって、犯罪に走った永山の暴走ぶりを許容せざるを得ない気持ちにさせる作品である。
問題となったのは、ひとつに裁判で精神鑑定書が採用されず、また最後には同鑑定書に石川医師が指摘した永山の大人として成熟していない点を永山自身が他人事のように述べたことである。また、医師が正常な家庭環境ならこのような事態にならなかったと指摘したことに対して、検事が家庭がダメでもまともに成長した人間はいくらでもいると論告の中で述べたが、永山の場合、両親が不仲で、幼少時に面倒をみてくれた長姉は精神病院へ入退院を繰り返して若くして亡くなったり、高校生の時女性を孕ませた早熟な長兄、次兄とも警察のお世話になって若くして世を去っている家庭環境からすれば、医師の指摘は至極的を射ている。その裁判の結果を左右する場で重要資料の精神鑑定書が採用されなかったことが、後々まで司法の在り方に問題を残したのではないか。
4人を殺害したとは言え、当時永山はまだ少年だった。その点で罪が軽減されることはないが、1審で死刑判決を受け、2審で無期、最高裁で再び死刑となった難しい裁判だっただけに、重要な要素を含んだ石川医師の精神鑑定書が採用されなかったことはやや疑問を残したと思う。
救いは、永山が死刑を望んでいたかのような死生観から、一旦は永山に裏切られたと感じた石川医師が、実は永山が医師の指摘を充分理解していたことを永山の鑑定書に書き込まれたメモから汲み取って石川医師も納得したことであり、永山の最後の写真が意外に安らかで良い笑顔だったことである。
いずれにせよ昭和43年永山が犯した連続殺人事件は、その当時世間に強い衝撃を与えた。今もって司法の場で反省を含めて多くの問題を提起しているのは、いかにも特異な事件であり、特異な犯人によって引き起こされたからだということをつくづく感じさせられる。