ウクライナやパレスチナ・ガザ地区の戦闘が大きく報道され、世界中から停戦を望む声が寄せられている。その中で、ミヤンマーがこのところさっぱりメディアで取り上げられなくなった。2021年2月1日民主的に選ばれた政権が、国軍の軍事クーデターによって崩壊させられてから4年4か月が経った。今では国軍のミンアウンフライン最高司令官が権力を握り軍事国家として国を統治、支配している。当時の民主派政権の幹部らは失脚させられ、追放されるか、投獄された。中でも国家顧問でもあり、旧ビルマ独立の父とも言われたアウンサン将軍の娘で、国民の間に人気絶大だったアウンサンスーチー氏も身柄を拘束されたままで、翌年には軍事裁判でスーチー氏を有罪として、後に刑期は短縮されたが、一方的に33年の刑期を課した。
軍が抑圧的な権力を行使したことによって各地で少数民族武装勢力が抵抗し、内戦が激化している。民主派の一部「国民防衛隊」も民主化への回帰を求めて国軍と戦っている。国軍としても抵抗勢力の壊滅作戦によりやや疲労気味で、少数民族の集落などは空爆を強化して、クーデター後だけですでにその数は7千回を超えた。人権団体・政治犯支援協会(AAPP)によると、国軍の空爆による市民の犠牲者は6千2百人を超え、更に深刻なのは避難民が323万人以上もいることである。そこへつい最近大きな海難事故が起きた。かねてから国内・ラカイン州で疎外され、孤立したイスラム系住民ロヒンギャが国際的に注目されていたが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が23日発表したところによると、彼ら難民514人を乗せた2隻の船がミヤンマー沖合で沈没し、合せて427人が死亡した。残念なのは、このミヤンマーのクーデターによる無法な国家統治に対して、世界の関心がやや薄くなっていることである。精々3月末に大地震に被災して、今なおその災禍から立ち直れないが、その時一時的に国際社会の同情を買った程度である。
その最中にアメリカはトランプ大統領の国際開発庁(USAID)の経費削減のため予算を縮小し、途上国支援のための政府開発援助(ODA)からの離脱により、支援をせず、日本政府もクーデター以降は人道支援以外の支援は停止している。その一方で、中国とロシアが国軍を軍事的に支援している。特に中国にとって、ミヤンマーは巨大な経済圏構想「一帯一路」の中国とインド洋をつなぐインフラ事業を進めるための重要な拠点と捉えて支援を惜しまない。
ウクライナやガザ地区のように露骨に空爆などで犠牲者を生んでいる状況に比べて、ミヤンマーの国軍による国民への弾圧は、それほどその残虐性は伝えられない。だが、他の国なら国外脱出をするところでも、ミヤンマーの人びとはあまり国を捨て、家族を捨てて危機を逃れようとする国民性ではない。それが国の窮状が外へ伝えられないミヤンマーのひとつの悩みとなっているのではないかと思う。
旧ビルマ時代に30回近くもミヤンマーを訪れ、多くのビルマ人と親しくなってビルマ人が他の国の人びととは異なる親しみのある、ビルマと言う国に惚れ込んでからもう半世紀以上にもなる。1日も早く軍事国家から元の民主派政権に変わり、民主国家として本来の政治を取り戻し、伸び伸びとおっとりしたビルマ人の本性に触れてみたいものである。
偶々今夜のNHK歌謡番組「うたコン」で初めて知ったことだが、森崎ウィンというミヤンマー出身の歌手が珍しくも出演していた。不思議な感じがしている。