先週末公になった柔道日本女子代表チームの監督とコーチによる暴力事件は、思いがけない形で燻り出した。日本オリンピック委員会(JOC)へ暴力を告発していた女子代表チームの代理人である弁護士が、昨日会見でひとりの前監督の責任だけに帰して問題解決が図られるのは選手たちの真意ではないとして、全日本柔道連盟(全柔連)指導陣の一新を含めて全柔連の体質改善を求めていると述べた。
昨日までの一連の経緯を注視すると、女子チーム選手は自分たちの鬱積した不満は暴力行為のみならず、暴力を蔓延らせる役員及び指導陣と連盟内の組織自体にあると指摘し、真摯に問題解決のための対応を求めたのである。選手の名前は明かされていないが、ここまで選手が具体的に踏み込んで追及するというのはよほどのことである。それは以前から全柔連に訴えても聞き入れてもらえず、やむを得ずJOCにアピールしたが、そのJOCはそのアピールをそのまま全柔連に委ねるという不誠実な対応に、選手たちの鬱憤した不満が爆発したのではないか。それにしても、JOCと全柔連の対応は甘いし、こういう事態に陥った深刻な状況と自分たちの「井の中の蛙」的思考経路が世間の常識とかけ離れたほど時代錯誤的であることに気付いていないことは、何とも情けない。
ことは日本のトップクラスの選手たちが、我慢の限界として集団で代表監督を告発し、組織を批判する前代未聞の非常事態にあるという事実である。このところ頻発している中高生に対する体罰事件のような、断片的な発生ではなく、日本を代表する選手が打って一丸となって声を上げているのである。
国際柔道連盟も、暴力は嘉納治五郎師範の精神に悖るものだと厳しく批判している。
全柔連から離れたある元選手は、女子チームには男子指導者には逆らえない空気があると言い、それは連盟内部に女子理事者が1人もいないことも影響していると述べている。実際国際柔道連盟のルールでは、理事の20%は女子であるべきと決められているが、日本の全柔連の理事は30名全員が男子だということも事件の背景にあると言えるのではないか。
今日全柔連は臨時理事会を召集して、吉村和郎・強化本部担当理事と徳野和彦コーチの辞任を発表したが、外部委員を含む強化委員会を来月開催するというが、そんなのんびりしている場合だろうか。
下村博文・文科相もスポーツ界最大の危機と捉えていると発言した。にも拘わらず、全柔連はもちろん、JOCの動きと対応はあまりにものろい。マネージメントが分らず、職責も職分も理解できず、ただ組織内で胡坐を掻き、威張りちらし、権威を振りかざしていたこれまでのツケで、大きな組織がまったく機能していない。こんな非効率で非民主的な団体が、アマチュアリズムを主張し、金メダル至上主義を口にすること自体おこがましいのではないか。全柔連は今こそ人心を一新して出直しを図るべきであろう。