かねてから減少傾向にあると危惧されていた日本人若者の海外留学者が減っている、2010年の実数を文科省が発表した。その数は5万8千人で最も多かった2003年の8万3千人に比べても約3割も減っている。最も多いアメリカへの留学生は、前年に比べて14.3%も減っている。それに引き比べて中国、韓国、東南アジアからの留学生は増加傾向にある。
一方海外から日本への留学生は近年増加傾向にあり、昨年5月時点で13万8千人と、日本人海外留学生の2倍を超えている。
文科省のまとめでは、就職活動の早期化で留学を渋る学生が多いことと、不況などで費用の捻出が難しくなっていることが大きな原因と見ているようだが、最大の原因は若者が海外へ目を向けようとしない内向き志向のせいではないかと思う。
この実数と傾向を知って、私自身何よりも感じたことはもったいないなぁということだ。幅広く学びながら自身が成長する機会を見逃している学生が多いことにやや失望している。遊び呆けている学生は別にして、学生の本分を自覚し真面目に学ぼうとする学生にとって、海外留学は視野を広げ、多くの異邦人と知り合い、自由に学ぶことができる絶好のチャンスではないかと思う。その恵まれた千載一遇の機会と環境をみすみす見逃してしまうのは、いかにも惜しい。
私自身大正時代にドイツへ留学した伯父に憧れ、子どもの頃から海外留学を切望していたが、海外渡航自由化が認められていなかった時代で、フルブライトやAFS(American Field Service)のような公的な留学チャンスにも巡り合えなかった。大学4年時に折角得たアメリカのウェスタン・ミシガン大学夏季短期留学の機会も、一旦は面接を受けながら父からそんな多額の費用は出せないと言われ、中途で断念した苦い思い出がある。ついに海外留学は憧れのままに終わってしまった。その後旅行業に携わるようになって文部省教員海外派遣団にお供するようになって、アメリカの大学を訪れる度に昔を思い出しては感傷的になったものである。
そんな学生時代の満たされなかった海外留学の夢が、社会人となってからも一度は会社へ辞表を提出してチェコへ留学しようと思い立った一時のきまぐれともなった。また、ひとりで遮二無二海外へ出かけたのも、元々頭の中から消え去らなかった海外志向のせいであると思っている。
そのように私にとっては憧れ続けていた海外留学を望む学生が減少していることは、実に残念である。2年前にノーベル賞受賞者・根岸英一博士と初めてお話した時、博士も若いうちに海外へ出かけることを強く勧め、それがどれほど若者の成長にとって大切かという点で考え方が一致して意気投合したことを思い出す。残念ながら私自身留学することはできなかったが、だからこそ今留学のチャンスが増えているにも拘わらず、目の前の留学機会をむざむざ逃している若者にチャンスを掴んで、外国へ出て外国の同世代と切磋琢磨してみてはどうかと尻を叩いてやりたい。