レスリングが2020年のオリンピックで除外種目候補に挙がったことをわが国のメディアでは大きく取り上げているが、この問題は日本以外のレスリング強国でも大きな話題となり、ロシアやアメリカのレスリング協会も巻き返しに動き出すようだ。日本以上にレスリングの盛んなロシアでは、今や伝説中の人物「霊長類最強」と言われたカレリン国会議員らを前面に押し出し、何とかレスリングがオリンピック種目として残るよう反転攻勢をかける考えのようである。
どうしてこういう予想もしない事態になってしまったのか。
その大きな原因のひとつは、レスリング界の問題というよりは、権威主義的な国際オリンピック委員会(IOC)という組織のあり方にあると思っている。長い間長老支配が続けられ、内部では今も非民主的で閉鎖的な組織のまま一向に新鮮な経営感覚を採り入れようとしない。元々サロン的な雰囲気の中で始められたオリンピックは、外部に対して明るいスポーツのイメージよりも、保守的でやや排他的なムードが強かった。IOC委員も民主的な選ばれ方ではなく、一部有力者の個性的な考え方やコネで選出されてきたことが排他的、かつ閉鎖性を生むスポーツ界らしからぬ組織へ向かわせた原因だと思う。その是非は別にして、21年間君臨したサマランチ前IOC会長の子息が理事に居座っていることからもそのことが読み取れる。
大体これだけ肥大な存在となり、世界最大級のイベントを主催する組織団体の運営が、偏った役員人選により行われていること自体異常だと言わざるを得ない。現在IOC委員は101人いると言われているが、そのうち43人はレスリングの人気が近年なくなったヨーロッパの人たちから選ばれている。レスリングを除外候補と決めた理事会には、15人中9人がヨーロッパ出身者である。しかも閉鎖的な仲良しクラブの会合では、レスリングが人気のないヨーロッパ出身理事参加の下に、他の特殊なスポーツ界と関係の深い理事が集まったのでは、レスリング除外を決めるのはいとも容易かったのではないか。
レスリング界には、他の競技に比べて伝統的にその存在感は圧倒的であるとの甘えから、ロビー活動が足りなかったとの反省の声もあるが、その一方で危ういとされたテコンドーが、韓国の朴クネ次期大統領がロゲIOC会長に直接訴えて救われたとか、前出のサマランチ理事が同じ除外候補の本命だった近代五種競技の国際連盟副会長だった縁故により当確になったとか、確かに公平でない決定の仕方だったし、裏工作もまた凄まじかったようである。
IOC内に蔓延る問題を一気に解決するのは中々難しいとは思うが、今の組織とあり方をもう少し民主的に衣替えして、誰もが納得のいく閉鎖性を排除した開かれた運営により、役員人事も選挙によるオープンなシステムに変更するようにしなければ、再び同じような問題が起こることは明々白々である。現状のIOCには相も変わらず前近代的な膿が巣食っていることは言うまでもない。これらを排除しなければ、今回レスリング除名問題が仮に解決されても、根本的な改革とはならない。現状は、近代的な運営を目指そうとするオリンピックではあるが、それを主催するIOCの組織自体が最も近代性から立ち遅れているようでは、今後の展望が開けない。
たかが1つのスポーツの対応を巡って、天下の朝日新聞朝刊で、モスクワ、ニューヨーク、ロンドンの特派員を総動員してフロント頁にトップ記事を書かせて大きく取り扱っている有様である。