昨日(日本時間今朝未明)ホワイトハウスで安倍首相とオバマ大統領の会談が行われた。訪米前から結論の出ていなかった環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加問題について、ペンデイング状態のまま話し合いに入った。その話し合いの結論は「あらかじめ全ての関税撤廃の約束を求められない」という極めて曖昧で、分り難い共同声明となって発表された。よくも弁護士でもあるオバマ大統領がこんなどちらとも受け取れるような表現で納得したものだと思う。そして首相はTPPへの参加か不参加を早く決断したいと述べた。まるで禅問答である。何がどうなっているのかさっぱり分らない。首相や専門家は当然分っていることであろうが、一般的にはとても分り難い。この辺りに政府と国民の理解に大きな乖離が見られる。
それは日本国内に賛成派と反対派がほぼ拮抗していて、自民党国会議員の間でも考え方は相半ばしているから、首相は両派のご機嫌を損ねないようどちらにも取れる言い方をしたのだろう。その証拠に先の総選挙で自民党はどちらにも媚を売ってお互いの主張を受け入れるようなご都合主義的マニフェストを掲げて勝利したのである。これからが本番で両派の意見を集約し党として、また国としての意見を一つにまとめていくのがアメリカと同盟を確認した首相の責任である。
ところで、その首相が唱えるアベノミクスの「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」を打ち出した過程で、首相は金融緩和面で政府から独立した機関であるべき日銀の手法がお気に召さなかったようで、白川方明総裁を敬遠し、来月白川総裁は任期終了前に自発的に辞任することになった。そして、その後任にやれ財務省OBはダメとか、出身母体に拘らないとか、思惑ばかりが先行していたが、昨日首相周辺筋から、後任に元財務官の黒田東彦氏が有力視されているとの声が漏れてきた。民主党政権時代には、徹底して財務省OBは総裁として不適任としていたが、安倍政権になって簡単に元の木阿弥となった。海外金融事情に精通し外国人の間に人脈が多いとの理由で、黒田氏を重用することに気持ちが傾いたのだろう。
しかし、心しなければならないのは、黒田氏は現在アジア開発銀行総裁の要職にある。しかもその任期は2016年まで残っている。アジアの大切な役回りを中途で放り出して、日銀総裁を引き受けることはわが国がアジア各国に対する信頼と責任を蔑ろにするばかりではなく、黒田氏自身自分が関わってきたアジアの発展を袖にすることであり、結果的に黒田氏自身の名誉と経歴にも傷をつけることになると思う。
首相はこれからTPP問題を含めて海外との経済交渉に当り、仮に黒田氏の日銀総裁起用を考えているとすれば、黒田氏の能力とは別に、日本の経済はともかく、アジア諸国に対してあまりにも礼儀を失し軽視していると受け取られても弁解の余地がない。黒田氏以外の後任ではダメなのか。