2124.2013年3月7日(木) アカデミー賞受賞作品「アルゴ」を観る。

 今年の映画アカデミー賞で作品賞、脚色賞、編集賞を受賞した「アルゴ」(ARGO)をぜひ観てみたいと思っていたが、今日何とか時間を差し繰って「ヒューマン・トラスト・シネマ渋谷」という新しい映画館で鑑賞した。最近の映画館は、昔に比べると新しいビルの中にいくつかまとまってシネ・コンプレックスと呼ばれて施設自体は小規模になったが、アトホームな雰囲気の中で落ち着いて観られるようになった。

 「アルゴ」とは何なのか。あまり良く分らないが、映画の中の会話から推測するとどうも宇宙船を表し、その意味も「糞食らえ!」というのだそうだ。プログラムにもその点についてはまったく説明がない。オスカーを獲得したからというわけではなく、この「アルゴ」に強い関心を抱いたのは、1979年11月イランの首都・テヘランで起きた衝撃的なアメリカ大使館占拠事件を題材に扱っていたからである。当時私自身もこの事件には大きなショックを受けた。ストーリーは、人質となった米大使館員58名のうち、カナダ大使私邸へ逃げ込んだ6人を救出するCIA隊員の活躍と6人の恐怖に怯えた葛藤の深層心理、さらにCIA隊員が偽映画ロケを敢行しながら6人を脱出させる人質救出作戦である。実はこの6人については、事件後18年間封印された最高国家機密情報だった。アメリカ映画にしては、珍しく男女間の恋愛関係がまったくなく、どちらかと言えばスリリングな活劇作品だが、私には昔のイランの様子や、テヘランの市街風景が懐かしく感じられた。特に市内と背後のエルブールズ山系の風景が印象的だった。

 そもそもこんな荒っぽい事件が起きたのは、欧米諸国の支援で王座に就いたシャー・パーレヴィー国王の贅沢三昧な生活と暴政に対して国民の不満が募ったからである。しかし、私が初めて訪れた1967年には、空港や市内の目立つところに国王の大きな写真が掲げられていたし、紙幣の肖像画もすべて国王だった。シャー一辺倒の様子だったが、実情がそうではなかったということは、この事件で初めて知った。

 結局シーア派の指導者・ホメイニ師が主導するイスラム革命によって現在のイスラム国家・イラン政府が成立したわけだが、果たして現状はイラン国民が望むような民主的な社会体制になっているだろうか。実情はアメリカが非難する「ならず者国家」のひとつとなり、国際社会の中で北朝鮮とともに孤立した状態にある。

 映画自体は手に汗握る結末となり、期待していた通りエンジョイすることはできた。私には「アルゴ」を79年当時の国際関係の中に身を置いて思い出し、かつ2度のイランへの旅から地勢的な興味を思い起こすと感慨深いものがある。しかし、白熱して盛り上がったストーリーとは言え、この事件だけでそのまま終わったのでは、一般の人たちにはオスカーに値する作品としての文化的価値を見出すことができるだろうか、何とも言えない。

 それでも全体としてドキュメンタリータッチで描かれた生々しい事件は、ストーリー性のみならず、当時の世相やイラン人の国民感情をかなり実態に即して映し出していたと思う。

 プログラムには映画評論家・品川雄吉氏が「週刊文春」に書いたコメント、「有名な実話がサスペンスとユーモアをたくみに交えて描かれる。あの実話がこんなに面白くていいのか、という気がする」が掲載されている。

 もうひとつ国際社会の注目を集めた事件に、一昨年5月アメリカ軍とパキスタン軍が協力してアルカイダの指導者だったオサマ・ビン・ラディンの潜伏先を襲撃し殺害した興味深い事件があったが、これも実話が映画に取り入れられ、今年のアカデミー賞で音響編集賞を受賞した。CIA情報分析官の執念と行動を追った「ゼロ・ダーク・サーティ」という作品であるが、これも何とかして近いうちに観てみたいと思っている。

2013年3月7日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com