朝日新聞社会部OB十日会の市民講座の案内を幹事の川上湛永さんからいただき、楽しみに会場の亀戸カメリアプラザへ出かけた。この市民講座には以前にも2度ばかり参加したことがあるが、今日のテーマは「原発と新聞」と銘打ち、川上さんの司会の下に現役の上丸(じょうまる)洋一・編集委員、OB記者の谷久光・元企画報道室長、と柴田鉄治・元科学部長の3人がスピーチをされた。
それぞれ朝日新聞社内で相当のポジションに就いた記者らで、それなりに頷けるところがあり、説得力もある。彼らなりに世論と国の政策の乖離に自分たちの力が充分伝わっていないと悩んでいるのが朝日記者らしいと感じた。メディアとしてその職責を果たしてきたか、世論を伝えるメディアがその世論と国の政策の間でもがいていること、記者クラブ制度の異常さ、メディアとしてしっかり原発事故の真実を伝えているか、等々について3人が口々に考えを述べた。
スピーカーの中に前回も出席された柴田氏がおられたので、話を聴けることを楽しみにしていた。やはり、自身科学者であるだけに原子力開発の歴史、東日本大震災以後のメディアの対応についてロジカルに説明された。海外特派員時代にそのリポートをよく読んだ記憶のある方だ。
柴田氏は「原子力報道失敗の歴史」として、5つの失敗の例を挙げたが、特に強調していたのは、福島第1原発の事故について、これだけの大事故を起こしていながら加害者が誰1人として責任を取っていないと厳しく批判されたことである。
最後に質問時間を設けてくれたので、世論と政策の乖離について最初に質問をした。また取材現場と真実の情報との観点から、記者が現場を歩かずに報道する傾向があるのではないかと、私自身のリスキーだったヨルダン軍による身柄拘束事件や、カイバル峠を訪れて初めて感じたニューヨーク同時多発事件の予感やチベット騒乱事件発生の予感などの体験話を交えて疑問を呈したことに対して、朝刊の連載記事「原発とメディア」を執筆していた上丸編集委員は、質問に対して朝日も世界各地に多くの特派員を派遣しており、それは新聞にも書かれているので分ると思うし、自分たちは現場を歩いて取材していると応えられた。本当か? 私には必ずしもそうは感じられない。彼ら特派員の記事は確かに現地からの生の報道ではあるが、必ずしも嗅覚鋭い臨場感のある、そこにいるからこそニュースソースを探り臨場感のある記事をスクープできたと言えるものではない。上丸氏は何か大きな勘違いをされているように思えてならない。特派員が駐在都市から記事を書き送るのはむしろ当たり前で、それが現場を歩いているということにはならない。上丸氏の回答は私の意図する質問から大分的外れである。自分は臨場感のある記事を書いていると言わんばかりで、どうも上から目線的な発言だと感じた。私の質問の意図が充分に分っていただけないようで、よほど再質問しようかと考えたが、時間制限や、他に質問者もいたので食い下がるのは止めた。ちょっと残念だった。やはり朝日記者としてのプライドが邪魔して空気も質問の意図も読めないのではないかと思った。
しかし、社内で事故後に、いろいろな悩みや葛藤の中で朝日として原発に反対する姿勢を貫き、その一部を今日3時間半以上に亘って開陳してくれたことには敬意を表したいと思う。読売、日経、産経などがどちらかと言えば原発賛成であるのに対して、朝日は毎日、東京とともに反原発の立場を主張することを誇らしげに話していたことが頼もしく感じられた。