たかが野球と言う勿れ。昨日明らかにされた、プロ野球公式戦で使われる公認ボールが前年より飛ぶように調整されていた事件ほど非常識で、主役である選手たちを愚弄する行為はない。しかもこれほど日本野球機構の隠蔽体質を思わせるお粗末な事件もない。
この不祥事が分ったのは、昨年に比べて今シーズンのペナント・レースでホームランの数が約1.5倍に急増したことから、今年のホームラン数は少し多すぎるとの外野の声があったことからである。だが、問題はプレイする選手やチーム、審判ら当事者がまったく与り知らないところで秘密裏にことが決められ、ゲームが行われていた隠蔽行為である。プロ野球界にとっては「黒い霧」事件以来の大不祥事件だと思う。
昨夕開かれた野球機構の記者会見で、加藤良三コミッショナーは恥ずかしげもなくこの事実をまったく知らなかったと述べた。最高責任者がこういう発言をしたからと言って、この不祥事が許されるわけではない。しかもコミッショナーはこれだけ世間を騒がせておきながら、これを不祥事とは思っておらず、職を辞する考えはまったくないとまで言い切っている。
加藤氏は特別野球界に愛着を抱いて、これまで野球界のために貢献してきたという人ではない。外交官として駐米大使という地位も名誉も最高のものを得た一方で、偶々野球好きの生来の性格からアメリカでも評価が高く名誉欲を縦にできるプロ野球コミッショナーというポジションに就いた。だが、この人は今日まで果たして野球界の権威を守り、プロ野球人のためにどれほどの仕事をしただろうか。
昨年はすったもんだの末に、漸く選手会と和解してプロ選手たちは今年3月WBCに参加した。その際外交官上がりの加藤氏は、率先してWBC事務局との外交交渉に乗り出すわけでもなく、選手会が苦難に陥っても手を差し伸べることもしなかった。一貫して責任感の希薄な態度に終始した。
結局加藤氏は自ら手を汚すことはせず、成り行き任せのまま、代りの人物がことを処するケースが多い。当事者能力にも欠け、組織の長としての資格に欠ける。こういう人物をリーダーとして選んだことは、プロ野球界の悲劇だったと言えよう。
どうもぱっとしない事件で、ひたすら懸命にプレイする選手たちが気の毒に思えてくる。2度とこんなお粗末な事件を繰り返すことがないことを願っている。また一切の責任を取ろうとの気持ちもなく、事務局に責任をおっかぶせるような年棒2400万円のコミッショナーにはとっとと辞めてもらいたいものである。