今朝の朝日新聞一面を見てあっと驚いた。「中国、南の島国に触手」としてミクロネシア連邦ヤップ州の大規模開発に関する記事が大々的に掲載されていたからである。ミクロネシアは国家財政の約4割をアメリカからの援助(約91億円)で賄ってきたが、その援助が10年後の2023年には打ち切られる厳しい現実に直面している。
今このミクロネシアについてノン・フィクションを執筆しているので調べているから分るが、ミクロネシアには元々小規模の農業、漁業、観光業以外にこれという産業がなく、貿易収支も恒常的に赤字で外国からの援助なしには立ち行かない国である。言うなれば、自給自足経済を少し進展させた発展途上国である。アメリカからの援助が打ち切られるとなれば、ことは重大である。そこへ目をつけたのが中国の巨大資本で、カジノホテルを建設する大プロジェクトが計画され、すでに昨年ヤップ州と投資協定を結んだ。
プロジェクトではミクロネシア連邦の4つの州のひとつ、ヤップ州の空港を整備して中国や日本から観光客を呼び寄せ、観光収入を増やそうと目論んでいるようだ。4つの州はそれぞれ別々の島から構成されていて地理的にも離れているので、先月訪れたチューク州など他の州が直ちに直接大きな影響を被るということではないかも知れないが、ヤップへの影響が徐々に他州へも及んでくることは想像に難くない。
ミクロネシア政府は取らぬ狸の皮算用により、航空機の飛来による相当の着陸料を見込んでいるようだが、それ以上に心配な点は、地元に1万人の雇用が生まれると本気で計算していることだと思う。仮に雇用が生まれても、地元の雇用状況が好転すると見るのは甘い。その理由として、中国による海外巨大プロジェクトは、これまで地元の労働者をほとんど雇用せず、労働者も機械、資材などと一緒に丸ごと中国から連れてきて行うために、それらが現地でトラブルとなっている前例が数多くあるからだ。それはこれまでのナイジェリアやビルマの土木建設工事を見ればよく分る。まさかミクロネシア政府がこのことを知らないことはないと思う。
その他にもいくつかの問題があるようだ。今まで計画を知らされていなかった住民から反対の声が上がった。プロジェクトに賛成で推進派のエマニュエル・モリ大統領が、反対派のヘンリー・フラン州議会議長と真っ向から対立している状態で、ヤップ州内だけに留まらず、下手をするとミクロネシア連邦の国内世論を分裂しかねない。
ミクロネシアは国家財政が赤字続きで国内にこれという産業もなく、国家の体面を保つのは容易ではない。今までアメリカの援助に頼り過ぎていたがために、国内では自力で歩む力が身につかず、急には自力で開発できる金儲けの手立てもなく、独自の島の伝統や文化を無視したうえで、ついに金満中国資本の軍門に下ることになってしまうのだろうか。
生前2度お会いしたことがあるモリ大統領の父・正隆氏は、極めて温厚で、人望があり、長期展望を見据えた方だった。先日お会いした妹のリンダ・モリ・ハートマンさんも如才ない方だった。それだけに、お会いしたことはないが、モリ大統領がこのプロジェクトで仮に傷つくようなことがあれば、国内に広く大きな影響力を持っているモリ一族にとっても一大事である。
恐らく森正隆氏がご存命なら、このプロジェクトには首を縦に振らなかったのではないだろうか。また、ススム・アイザワ大酋長が生きていれば、どう考え判断されただろうか。