2584.2014年6月10日(火) 旅行収支の黒字について思う。

 昨日内閣府が今年1~3月期の国内総生産(GDP)の改定数値を発表した。それによると年率換算で当初の速報値5.9%から6.7%へ上方修正された。単に数値の変更であるので、この修正自体個々にどこかへしわ寄せされるというものではないので心配することはないが、それでも自らの実績を誇示したい安倍首相は、GDPの上方修正はアベノミクスの成果であると早速自慢げに話している。これにより法人税減税など一部にだけ恩恵があるようなことにならないよう願いたいものである。

 その好景気についてどこの新聞もトップ記事扱いだった典型的な例は、旅行収支が訪日外国人の増加により44年ぶりに黒字になったことである。その数も夢だった1千万人を凌駕して今では2千万人を目指す時代となった。1970年大阪万博開催により一時的に外国人旅行者が増えたが、その年を除くと旅行収支が黒字になるなんて夢のまた夢で想像することすらできなかった。それが恒常的に旅行収支黒字の兆しが見えてきたのだ。これまで旅行収支の赤字は、海外からの批判を浴びる貿易収支の大幅黒字を目立たせないための隠れ蓑に使われ、貿易収支が良くなれば日本人は海外旅行で外貨を浪費せよと言わんばかりの国策だった。国は貿易収支の多寡により、海外旅行者の外貨使用額を調整して全体の国際収支を作成していた。その典型は海外への持ち出し外貨を貿易状態によって調整し、旅行会社や旅行者が苦労させられていた歴史がある。

 それが歳月を経て外国人旅行者が増えるに従い、旅行業だけで食っていける時代になったということだ。

 最近になって観光振興やら、21世紀は観光の時代などともてはやしているが、国が真剣にこれまで観光振興に取り組んできたわけではなかった。旅行は国が公的に行うものではなく、民間がすべてを国の支援を受けずに民間ベースで行ってきたものである。すべて民間が行っている旅行を黙って見て違法な点があれば法律で縛って注意していただけに過ぎない。建設的な行政指導や教育的な善導すらなされなかった。従って観光業への国家予算は最低だったし、時代の流れもあり今ごろになって、観光関連産業の雇用創出効果が大きいとか、外貨を稼ぐとか煽てても何を今更という気がしてならない。今ではGDPに占める観光業界の規模は半導体や、家電を超え3.5%との試算もある。

 しかし、観光業は400万人近い雇用を生むとの期待がある一方で、観光業界には構造的に労働者の低賃金というアキレス筋がある。厚労省の統計でも電子・電気や輸送用機械は年収が540万円を超えるが、観光業は精々340万円前後である。見掛けはともかく、皆薄給で働いているのだ。労働もきつい。職場環境も外から想像するほど良くない。国も観光業界のこの実態を知らんぷりして素通りするわけにはいくまい。脚光を浴びるようになった今こそ、観光業界の実態にメスを入れ、健全な業界として育て多くの有能な若者が誇りを持って働ける職場を作り上げなければいけない。

 その他にも国に対して注文がある。口先だけで「おもてなし」や「日本文化」を言うだけでなく、それを正しく理解し、育成していくプロパガンダを行ってきちんと予算を付けて、日本文化を正確に伝えるようなリーフレットを作成するなりして、外国人が日本に来て正しい日本の文化を学び、日本を正しく知ってもらう政策を実行できるようにしてもらいたい。はっきり言って、国は外国人観光客を呼び込んだり、日本の旅行業の発展のためにこれまでほとんど何もやって来なかったと言っても過言ではない。

2014年6月10日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com