このところ下がり続けていた株価が昨日、今日と上昇に転じた。どうもアメリカの株式市場で思惑がからんだ期待感から株が買われたらしい。その思惑とは、オバマ大統領がアメリカ連邦準備理事会(FRB)次期議長にジャネット・イェレン副議長の昇格就任を決めたことである。イェレン氏は雇用回復を重視し、金融緩和に積極的なハト派とされ、伝統的な枠組みに捉われず金融政策を運営する立場を取る。バーナンキ議長が緩和縮小に言及したのをきっかけにリスク回避の動きが望まれる中で、市場関係者から圧倒的な支持があるイェレン氏の考え方が決め手となったようだ。イェレン氏はFRB史上初めての女性議長である。夫はノーベル経済学賞を授賞されたそうだから、夫妻揃って経済学者である。オバマ政権もこのところ不安視されている財政問題や、金利の上昇圧力にさらされているアメリカ経済の混乱を何とか回避しようと考えたと見られている。
いまアメリカは2つの問題を抱え込んでいる。今年度の暫定予算が議会を通過せず多くの国の施設で機能が麻痺していることと、債務上限の引き上げを目の前にデフォルトの危機が迫っていることである。特に後者は17日が期限で今や秒読みの段階に入った。これによっては株式相場のブレが大きくなる。新議長には何とか早く突破口を開いてもらいたいものである。
さて、今朝の日経紙一面の「春秋」欄に4日に亡くなられたベトナムのボー・グエン・ザップ将軍を惜しむ話題が載っていた。「20世紀を象徴する人物がまた1人、この世を去った。そんな感慨を抱いた人もいるのではなかろうか~」と追憶するコメントの書き出しである。そんな感慨を抱いたひとりとして私自身ベトナム戦争を回想していた。私がベトナムを訪れたのは1967年1月で、国中に実弾が飛び交う中で国民はぴりぴりしていた。私がサイゴンを発ってまもなくタンソンニュット空港がベトコンに爆撃され、その2週間後に空港は閉鎖された。その翌年1月戦争の最大の転機となったテト攻勢が起き、戦争は激化していった中で75年に首都サイゴンが陥落しベトナム戦争は終わった。
特にザップ将軍の働きぶりとして有名なのは、ベトナム戦争でアメリカ軍を破ったこともさることながら、54年にディエンビエンフーの戦いでベトナム軍を指揮して当時の宗主国フランスを激戦の末に破り独立を勝ち取ったことである。この後フランスは停戦協定を締結したマンデス・フランス首相が退いて転換期を迎え、アルジェリア帰りのド・ゴール将軍が大統領となって第5共和制となった。
ザップ将軍の戦略が「小が大を降す」結果となった。ディエンビエンフーの戦い、サイゴン陥落、ともにいずれも強く印象に残っている。20世紀の傑物である。