ネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領が亡くなられた。95歳だった。最近健康を害してその様子が遠慮がちに伝えられていた。27年間に及ぶ獄中生活を送った不屈の人だった。何といっても人種差別を象徴するアパルトヘイト政策と闘い、獄中からその撤廃を訴えて実現して1990年釈放されるや南アフリカ最初の黒人大統領に就いた後も、黒人が白人に対して報復することを許さず、人種融和の象徴として世界中から尊敬を集めた。93年にはノーベル平和賞を受賞している。日本にも2度訪問された。
1991年5月南アフリカを訪れた時、マンデラ氏は釈放され自由の身となっていたが、まだアパルトヘイトを支持する勢力は根強く、支援する人は数多くいた。彼らがアパルトヘイトを支持する理由は、居住地区を自由にすると反って治安が悪化するということだった。鉱山内に社宅を用意された黒人従業員はアパルトヘイトに賛成だと話していたことが強く印象に残っている。彼らの言い分は、働く職場や住居が与えられるなら働く意欲のある自分たちにとってアパルトヘイトは好都合であり、働き者の黒人にとってはその方がずっと良い。怠け者の黒人にとっては反アパルトヘイトは反って都合が良いので、アパルトヘイトに反対しているのは、こういう怠け者だと話してくれたことが妙に頭の隅に引っかかっている。
ちょうどその春ロスアンゼルスで白人警官が寄ってたかって黒人を殴打する、所謂「ロスアンゼルス暴動」が発生したが、その時ガイドをしてくれた黒人の鉱山会社社員が、アパルトヘイトをやっていればこんな事件は起きなかったと言ったのにはびっくりした。
しかし、幸いにしてマンデラ氏の強い反人種隔離政策の理念が少しずつ効果を上げ、黒人に対して白人を憎まず反白人運動を起こさないよう、つまり反差別を強く訴え続け、結果としてそれが功を奏した。恨みを相手にぶつけず、あくまで反差別と自由を追求して、その成果を国民に与えた、稀に見るヒューマニストだったと思う。
1995年南アフリカでラグビー・ワールドカップが開催された時には存在感を示され、それが数年前映画にもなり、マンデラ氏に扮した俳優が出て来て中々面白かった。
ヒューマニズムに溢れ、実行力のあったマンデラ氏のような理想と信念が固く実行力のある人は今後もそう現れないだろう。心よりご冥福をお祈りしたいと思う。