やってくれたかというのが率直な感想である。今日安倍晋三首相は安倍政権発足1年を機会に靖国神社に参拝した。現職首相が参拝するのは、小泉純一郎首相以来7年ぶりである。首相が戦没者に対して尊崇の念を表したいとの気持ちは、これまでにも聞かされているので、理解できないこともないが、中国、韓国が強く反対し、それが外交関係をスムーズに運ばせないひとつの原因となっている中で、相手国が嫌がる行為を国家を代表する人間が敢えて行うべきことであるかどうかぐらい考えて見れば分かりそうなものである。
首相は中国や韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ないと言っているが、首相の意に反して早くも両国から反発の声が上がっている。中韓両国が靖国参拝を非難するのは予想されたことである。韓国外交省は日韓関係をどうしたら良いのか理解できないとコメントを発し、中国外務省は強く抗議し厳しく非難すると述べたうえで、「絶対に受け入れられない。参拝は新たに重大な政治的障害を生む。日本は引き起こした結果に責任を負わなければならない」と強く反発している。これで北東アジアの安全保障の環境は厳しさを増してくることは明らかである。
安倍首相以下政府首脳が中韓との外交関係はいまや底にあると考え、これ以上悪化することはないと考えたとすればあまりにも考えが甘い。安倍首相の気持ちは気持ちとして、国のトップが相手国の嫌うことを強引に行うことは、世界の平和と友好の観点からすれば明らかにマイナスである。外交的に、政治的に大きなリスクを背負うことになる。それでも強引にやってしまうということは中韓両国のみならず、他の国々から見てもあまり受け入れられることではない。実際かねがね日本と中韓間の対立を憂慮していたアメリカは、とりあえず失望しているとだけコメントした。そっとしておいた方が波風は立ち難いし、将来対立関係をほぐすにも問題は少ない。それを首相の参拝は一層外交関係を難しくして、当分事態の解決を遥か将来へ先送りしてしまった。
翻ってこういう行為は国家国民のために奉仕すべき総理大臣として、許されることだろうか。国民に外交問題で心配させないということも政治家、特に総理大臣の責務ではないだろうか。
どうして靖国神社参拝に拘るのか。御幣はあるが、最善の策がなければ、次善の策を考え検討しようとの発想がなぜ生まれてこないのだろうか。思いあがっているとしか思えない。
これでまた、日本近海が騒がしくなる。国民としてはうんざりするが、これが安倍首相と政府としては思う壺なのだろうか。