5456.2022年7月29日(金) JR赤字路線をどう存続させるのか。

 コロナ禍で観光業界、交通業界が経営的に大分苦しくなっているが、そこへ昨日JR東日本が、地域の採算が悪化している地方路線ごとの収支を初めて公表した。それによると1日1㎞当たりの平均利用者数が2千人未満の35路線66区間のすべてが赤字だった。沿線人口が減って利用者が少なくなったことがその最たる原因である。さりとてこればかりは住民の生活上大きな影響を与えるだけに、赤字路線即廃止と言うわけには行かず、存続のためにJRと沿線自治体の前向きの協議が望まれる。

 JR各社は旧国鉄から分離独立した当時から地域性に優劣があり、各社が同じような経営を行うことは難しかった。新幹線を営業するJR3社は大都市圏で稼ぐことによって全体で黒字を確保出来ると想定していた。しかし、このコロナ禍で状況が変わった。3社も2021年度決算で純損益が大幅な赤字企業に転落した。地域の交通をどのように最適化させることが出来るかについては、有識者の間で鉄道会社側からも提案を出すべきであるとの意見が出されている。

 今では赤字化した路線には、元々乗客は少ないが、その分景観も気持ちを癒してくれるような自然が溢れている所が多い。かつて八ヶ岳に登るためによく利用した小海線の年間の赤字額が、約15億円もあるという。小海線沿線の風景は何とも言えず懐かしい。八ヶ岳へは、清里駅を主に甲斐小泉、甲斐大泉の両駅からトライしたものである。そして沿線には日本の鉄道駅で一番高い標高1,345mの野辺山駅もある。小淵沢駅から終点の小諸駅へ至れば小諸城址・懐古園がある。近くを島崎藤村の「小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ~」の情緒たっぷりの「千曲川旅情の歌」に歌われた千曲川が流れている。何とか利用者が増えて存続して欲しいと願うのは、JR、沿線住民ばかりではなく、数は少ないが観光客もいるのだ。

 そう願っていたところ、ふと月刊誌「NATIONAL GEOGRAPHIC」7月号の特集記事「都会の野生動物」を思い出した。アメリカでは山野や高原ばかりでなく大都市にも野生動物が徘徊しているような所が数多くある。同誌はアメリカの都市部における野生動物の進出と、野生動物と住民との棲み分けについて写真付きで解説していて大変興味深い。近年日本でも地方都市などでは、野生の熊や鹿などが住宅地帯に侵入して田畑を荒らしたり、時には人を傷つけることがあるが、首都圏のような大都市にコヨーテなどが歩き回ることなんてとても想像出来ない。

 ところが、同誌によると熊、コヨーテ、アライグマなどの生息地域が縮小する中で都会にうまく適応する生き物もいるそうだ。特に驚くのは、シカゴのような大都会でコヨーテがこの数十年間にアメリカ国内の生息域を急速に拡大し、今日ではハワイ州以外のすべての州に生息していることである。ネオン輝くシカゴ川に沿ってコヨーテが歩き回っている姿はとても日本では信じられない。それでも人が野生動物に襲われるケースはほとんどないようで、その点で人間と野生動物が地域的に、また活動する時間において上手に棲み分けているのだろう。これも人間の住む世界と野生動物の世界が同じ空気に近づいたということでもあろう。
 小海線の棲み分けというわけでもないが、都会で密集している集団の人びとが、小海線沿線のような広大で素晴らしい風光の中へやって来ることが出来るなら、赤字路線も立ち直り、ストレスが溜まった都会人もきっと心の安らぎを覚えることだろう。

2022年7月29日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com