4912.2020年10月23日(金) イスラム教国トルコと反イスラム国中国

 創建されて千五百年になるイスタンブールの歴史的な建造物アヤソフィアは、キリスト教会からイスラム教モスクへと替わり、その後無宗教の博物館として存在してきた。ブルーモスクともいわれるこのイスラム殿堂は世界遺産でもあり、イスラム教徒に関係なく多くの外国人観光客が見学に訪れる。私自身何度か訪れたことがあるが、内部のギリスト教とイスラムを象徴するステンドガラスと壁画が素晴らしい。ところが、去る5月にその博物館を再びモスクへ戻す動きが出て波紋を呼んでいる。トルコの前身、イスラム勢力のオスマン帝国が、カトリックのビザンツ(東ローマ)帝国の首都だったイスタンブールを征服してから567周年を記念するイスラム式典を、トルコ政府がこのアヤソフィアで開催したのである。

 もともと何かとトルコ政府と対立していたギリシャが、黙っているわけがない。イスラム教のコーランは世界中のキリスト教徒の心情に対する侮辱だとして、無宗教の博物館のイスラム化に強い異議と反対を唱えた。しかし、キリスト教国の反対があろうとも、イスラム化を強めるトルコのエルドアン大統領は些かもたじろぐこともなく、その剛腕ぶりは益々エスカレートしている。

 一方で、中国の新疆ウィグル地区では、かねてより中国政府がイスラム教徒であるウィグル族に対して厳しい人権抑圧を加えている。中国はイスラム教への監視、管理を強め、宗教の中国化を唱えると同時に、公の場においてウィグル語の使用についても制約し、教育現場では基本的に中国語で教育して教科書も中国語で書かれている。現在新疆ウィグル自治区には1270万人のウィグル族が居住している。漢民族とウィグル族の対立もしばしば起きていて、中国政府はウィグル独立を目指す過激派勢力を抑えるため、弾圧を強化しウィグル族住民への統制も強めている。

 近年になってイスラム教の象徴であるモスクが少しずつ姿を消しつつあると最近報告された。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が衛星写真などで確認したところでは、モスクの60%以上が破壊されていると指摘し、ウィグル族住民の信仰や文化を危機に追いやるものだと批判的な意見を公にした。新疆西端の街カシュガルでは、旧市街のモスクがこの2~3年の間にかなり閉鎖されたという。中にはカフェに替えられ、漢人がオーナーになっている。イスラム教のモスクにとっても最も象徴的なドームの上のイスラム教シンボルだった新月が取り外され、中国国旗が掲げられているというからイスラム教徒にはとても近づく気持ちにはなれないだろう。

 破壊されたモスクは、中国共産党に依れば耐震性が不十分で危険な建物として閉鎖したという。習近平指導部は、2015年共産党会議で「宗教が社会主義社会に適応するよう宗教の中国化の方向を堅持する」との方針を決定した。今や社会主義国家ではない中国が、社会主義化というのも奇妙であるが、社会主義では宗教を敵対視していたのも忘れて「宗教の中国化」というのも意味をなさない。ASPIの分析では、新疆では外国人観光客があまり訪れないウルムチで35%、カシュガルで40%、農村部では80%以上のモスクが破壊されたり改造されていたという。

 この指摘に対して中国外務省副報道局長は、予想していた通り「ASPIは反中国のでっち上げ報告をしている」と無視、否定していた。どうして中国という国は外部から具体的な指摘をされると根拠も示さず、否定ばかりするのか。もう少し素直、かつ謙虚になれないもののだろうか。

2020年10月23日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com