4451.2019年7月20日(土) 戦没者遺骨収集事業に対する誤解

 このほど厚生労働省は戦没者の遺骨の身元確認のひとつの方法としてこれまで行わなかった頭骸骨のDNA鑑定を行うことを決定した。1970年代初頭から約20年間に亘って旧厚生省戦没者遺骨収集事業に関わってきた経験から考えると少し遅すぎたのではないかとの印象が拭えない。ただ、記事を読んでみると私が関わっていたころにはDNA鑑定はやっていなかった。そのため遺留品に名前が書かれているケースや、遺族、戦友らが戦没者と断定する以外ほとんど本人と決めつける材料がなかった。その意味では、正式にDNA鑑定を行うというのは結構だと思う。

 中部太平洋諸島遺骨収集団のケースでは、1か月間に各島で収集された遺骨を、収集団本部のあるサイパンに集めて積み上げたお骨に点火して焼骨式を行っていた。灰とならずに焼け残ったお骨を布袋に、そして段ボールに詰め白いシーツで覆い日本に持ち帰ったものである。主に大腿骨が多かったが、その時骨片が残れば頭蓋骨も持ち帰った。しかし、これらはDNA鑑定を行わなかったので、戦没者を特定出来なかった。他にも日本側の事情だけでOKというわけには行かないケースが多い。相手国によっては現地で焼骨することを条件に求めているところもあるくらいである。厚生省も遺骨収集事業を大々的に効率よく進めるべきだとの国内世論の突き上げもあったが、こればかりは遺骨収集国の国内事情から望んでも実施してもらえない時期が長く続いた。そればかりは政府の怠慢行為ではなく、あくまでも相手国の厳しい事情によるものである。

 今回DNA鑑定を行うことが決定されたが、どうしてこれまでDNA鑑定を行わなかったのだろうか。この間名前が分からないまま焼骨により、灰になったり、証拠がなく不明者とされた戦没者がどれほど多くいただろうか。

 遺骨収集事業には、どうも腰が引ける気持ちがあるのも事実である。国家事業でありながら政府は予算をつけるだけで、主体的に業務を行うのはほとんど遺族、戦友、一部のボランティアである。それがため実情を知らないボランティアや、損得勘定に敏感な人が絡むと本来の主旨とは乖離していく傾向がある。

 例えば、2015年10月に放映されたテレビ東京のガダルカナル島の遺骨収集団のようにテレビ局は誤解のうえに、偏った自己主張が激しく、これでは戦没者、遺族、真摯に事業に取り組んでいる人々の気持ちを逆なでするばかりである。

 まだまだ海外で亡くなられて遺骨が母国へ帰らない戦没者は多い。時が経ち、現地での収骨作業自体が難しくなっている時に、どうやって実効成果を上げることが出来るか、難しい課題である。頭蓋骨のDNA鑑定が行われるのを機会に、何とか遺族の気持ちを汲み取って欲しいと思う。

2019年7月20日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com