4441.2019年7月10日(水) 報道の勇み足と真実報道の難しさ

 元患者によるハンセン氏病訴訟と国の責任をめぐる問題が漸く決着した。1998年に元患者が損害賠償を求めて熊本地裁に提訴したのが、この問題のきっかけである。その後鳥取地裁の判決など紆余曲折はあったが、先月28日熊本地裁は国に対して家族へ総額3億7千万円の賠償を命じる判決を下した。この判決では、国が元患者に対して「義務を果たさなかった」「義務を怠った」「不作為があった」などと国の責任を認定し賠償を命じたものである。

 それに対して政府は控訴を検討し自民党内では控訴する空気が強かった。それを受けて昨日朝日朝刊が国は控訴すると発表した。ところが午前中に安倍首相が控訴をしない方針と発表した。さぁ大変である。朝日は早速夕刊でお詫びと訂正を伝えた。ところがまだそれで終わらない。今日の朝日朝刊で一面に「誤った記事 おわびします」、二面に政治部長名で「本社記事 誤った経緯説明します」と念入りに誤った記事のお詫びである。どうしてこんなことになってしまったのか。最終的な確認を取らずに原稿を流した。結局最後の詰めが甘く、事実関係が未確認のまま予測で記事を書いてしまったということに他ならない。

 更に今日駒澤大学ジャーナリズム・政策公開講座の2つの講座でいずれもこの問題を取り上げた。特に朝日記者が講師を務めた講座では、事実関係を関係者のひとりとして細かく説明された。問題がハンセン氏病の元患者の賠償に関わることで、これまで元患者と家族が苦しんできた問題だけに慎重にも慎重に扱ってきた。それが反って判断を狂わせてしまったのだろうか。それにしても影響力の強い新聞社としては甘かったでは済まされまい。講師の朝日記者は、随分恐縮していたが、事実を一刻も早く読者に伝えたいという焦りの気持ちが、ともすると勇み足になりかねないということでもある。

 こういうニュース報道だけに限らず、物事の判断というのは最前線から一歩身を退いてみる気持ちが大事なのかなと思う。

2019年7月10日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com