現在安倍政権は、国会における圧倒的に優位な一強多弱を背景に、憲法改正に的を絞り右翼的な政策を着々と実行に移そうとしている。ただ、いくら閣僚だけで閣議決定したにせよ、必ずしも与党の足並みが揃うわけではない。「平和の党」を自称する公明党が、政府自民党の考えに異を唱え、議論を煮詰めている最中である。
しかし、これはそう簡単にまとまりそうもない。新たな安全保障法制を巡る点で7分野にも亘って論点があるからだ。閣議決定に見られるように、そもそも政府の決定へのアクセスは、取り敢えず閣議で決定しておいてその後になし崩し的に決定、実行してしまおうとの計略的な気持ちが強い。アメリカに顔を向けてアメリカの海外戦略に少しでも力になろうという意向が働いているようだ。そのためには自衛隊を海外へ派遣させ、危険地域であろうとも同盟国であるアメリカを支援できる法制にしようと些か功を焦り過ぎている。
シビリアン・コントロールについても少しでも形骸化させようという気持ちが強い。制服組、実戦部隊の意向を反映させようとの強い気持ちがある。それでいて中谷元防衛大臣ですら、戦後憲法に文民統制が確立された背景について、戦争の反省からきちんと決められた文民統制についてご存じないお粗末ぶりである。防衛省の文官を格下げして武官と同じ地位に並ばせて、ともに文民である大臣を補佐するという防衛省側なりの意向はあるが、今や中谷大臣自身が自衛隊出身であるが故に、制服組の次官クラスと組んだら、現場を知らない文官の意見なぞ聴くわけがない。そうなると制服組暴走である。自衛隊出身の大臣が誕生した時点で、すでに自動的に文民統制は崩れていると言わざるを得ない。
これに加えて心配なのは、多くの政治評論家が気にしているように、あまりにも積極的平和主義の名の下に暴走している安倍首相の言動である。担がれたお神輿に乗って右翼志向の自分と少しでも波長が合えば、示し合せて突っ走る。
「選択」3月号によれば、自民党としては珍しいリベラル派の村上誠一郎議員がこう言っている。「昔首相になる人は、旧制高校や陸士、海兵の出身で、基礎学力があり偏差値が高かった。刻苦奮励しながら知性と教養を磨き、役所の局長、次官のキャリアを積んでいた。漢籍に通じ文学への造詣も深かった」。そのうえで、安倍首相には残念ながらそれがない。政治家二世で永田町の人として、永田町の楽屋裏には詳しかったが、哲学論争や旧制高校的教養を身につける場がなかったと厳しい決めつけ方である。言うまでもないことであるが、安倍晋三氏を知る周囲では、誰もがまさか首相にまでなれるとは全く考えてもいなかったという。我々もそう思うし、結果的に安倍長期政権の可能性が強くなったことは国民にとっても不幸の極みである。
ともかくできるだけ早く現在の安倍政権の暴走に何とか歯止めをかけなければ、将来的に日本を戦争に巻き込み、再び国土を焦土と化し原発放射能漏れによって豊かな土地を荒廃させることになることは想像に難くない。嫌な予感がする。