実に見事なものである。し分ない。千鳥ヶ淵の桜がとにかく素晴らしいのだ。ここ数日千鳥ヶ淵がお花見季節の風物詩として、その艶やかな夜桜がテレビ映像で流されたり、新聞でも報道されている。都内には他に上野公園や代々木公園、駒澤公園、隅田川、目黒川の桜などもその華やかさで知られているが、場所柄、風景、雰囲気などから考えても皇居のお堀端にある、この千鳥ヶ淵が圧巻だろう。
今日妻とその千鳥ヶ淵の桜見物に出かけた。地下鉄半蔵門駅からお堀へ向かいイギリス大使館前を通ったが、カメラを手にした花見ファンがあちこちで見られる。内堀通りに出て広大な敷地のイギリス大使館前を通りに沿って歩いた。大使館正門前には幕末に対日条約締結で活躍したアーネスト・サトー公使が桜の植樹に貢献されたことを紹介した石碑が建っていた。
イギリス大使館と言えば、ふと感慨深く想い出すことがあった。あれは1967年11月だった。翌68年1月11日アデン(現イェーメン)が独立する当日に入国しようと、入国ビザ申請のために宗主国イギリスのこの駐日大使館へ出頭した。ところがアデンは突然日時を繰り上げて慌ただしく11月に独立してしまった。従って私がアデンへ入国した1月11日は、アデンはすでに独立国「南イェーメン人民共和国」となっていた。結局このイギリス大使館が発行してくれたビザは無効となってしまった。私は空港で新独立国のビザを発行してもらい、入国係官から独立後最初に入国した日本人と呼ばれた。そのこと自体はちょっと誇らしい気持ちだった。あのイギリス大使館があの当時も立派な建物ではあったがこれほどとは思わなかった。しかし、ビザ取得に夢中になっていてそれほど強い印象はない。いずれにせよ、あのアデン行きは、いまの私にとって大きな成長の素となった。忘れられない旅行であり、忘れられないイギリス大使館でもある。
お堀端に近づくにつれ満開の桜が眼いっぱいに飛び込んで来る。それらはほとんどが咲き誇ったソメイヨシノだが、中にはまだ緑の葉が濃く見られる桜もあり、それらはソメイヨシノとは別種の桜だろう。半蔵門から皇居内へ入り石垣上の散歩道を桜の景観を楽しみながらほぼ半周して北の丸公園内へ入り、ここも石垣上の小道から堀を隔てた桜並木の景観に満足感を覚える。これまで偶にはお堀端を訪れることはあってもこれほどお花見シーズンに観桜を楽しんだことはない。食事を持ちこみシーツを敷いてピクニック気分でゆっくり観桜すれば、もう少し気持ちが落ち着いたであろうに、その点で少々惜しいことをしたと後悔の気持ちがする。
それにしても大勢の花見客がやって来るものだ。熟年の花見客も多く、彼らのほとんどは大型のカメラを手に撮りまくっている。ランチタイムにぶつかったこともあり、近隣のオフィスに勤めているビジネスマンらしい小グループが、茣蓙を敷いて背広姿で弁当を食べている姿が何とも微笑ましい。仕事の合間に彼らもお花見を楽しんでいるのだろう。
この他に、特に目立ったのは、外国人の姿だ。花見がこの時節の日本らしい象徴的シーンと見て、自分たちもご相伴に与かろうというものであろう、その姿が特に多く見られたように感じた。
北の丸公園から武道館前を通り田安門から靖国通りへ出て、再び地下鉄で渋谷へ出て「ヒカリエ」で遅い昼食を済ませて帰って来た。万歩計はこの時すでに1万2千歩ほどを記録していた。これには少々驚いた。夢中で歩いていたことになる。
千鳥ヶ淵のお花見は初めてだったが、心身ともに久しぶりに満足感を味わうことができた。