2899.2015年4月21日(火) 繁栄の陰に世界的な恥部

 日本ではこれまでほとんど話題にもならなかったが、貧しいアラブ、アフリカ諸国から恒常的にヨーロッパへ向かう難民船が転覆して多数の犠牲者を生んでいることが欧米社会にショックを与えている。つい先日もリビアからイタリアへ向かった船舶が沈没して700人もの死者が出たと伝えられたばかりである。日本のメディアでも急に大きく取り扱い出したが、この遭難事件は今に始まったことではなく、2011年にリビアでカダフィ政権が崩壊して国内が混乱し、テロリストが跋扈し出してから目につくようになったようだ。昨年だけでも22万人近くの難民が地中海を渡りヨーロッパへ、他方で少なくとも3500人が死亡しているというから凄まじい。その勢いは納まることもなく、今年に入って少なくとも3万人以上がイタリアとギリシャへ渡ったという。先日の沈没船による遭難はありきたりの事故だったようだ。

 生活苦や治安の悪さから難民ばかりではなく、国内が内戦状態で混乱しているシリアからトルコを経由してイタリア、ギリシャへ密航してくる難民も多い。流石に受け入れ国では、自国民に対する対策ばかりではなく予想外に彼ら難民にも対応せざるを得ず、根を上げているのが実態である。危機感を募らせているのは、密航船が後を絶たず、転覆などで過去最大規模と見られる犠牲者を出す事故も相次いでいるためである。イタリアのレンツィ首相は、難民たちを密航業者から救うべきで、イタリア一国だけに頼らないでヨーロッパ全体で取り組むべきだと訴えている。実際イタリアでは沿岸警備隊がこの1週間だけで1万人以上を救助したほど異常な状態になっている。

 難民船(密航船かも?)を写真で見ると、甲板上に立錐の余地もなく乗船させられた難民は、全員文化も異なり肌の色も異なる民族であり、彼らが事前に住む家や働く場所がないまま市街に放り出されるとしたら、どういう事態になるのか大凡の想像はつく。日本人には、ベトナム戦争中の難民船を思いだす向きもあるかも知れないが、距離的に遠く、海洋も荒れて現実にはあまり多くのベトナム人難民は日本にやっては来なかった。従って我々日本人にとってはこの異常ではあるが、ヨーロッパ人が感じる当惑は実感としては中々分からないと思う。ただ、異常なでき事であることは想像がつく。

 ところで今日のNHK「クローズアップ現代」は中国国内の誘拐事件をドキュメントで伝えていた。ここにも異常な事件がある。中国では近年幼い子どもの誘拐が頻発していて、1年間に実に20万人の幼児が誘拐され、そのほとんどが未解決であるという冷酷非道な事件である。これも根本的には都市と農村の経済的な格差が生んだ事件のようだ。背景には少子化で子どもが少なくなり、農村では働き手として使われ、老いては年金も少なく、子どものいない老人は将来を心配して子どもを買うという。不思議なのは、子どもとは言え、人身売買が行われていても法律的には厳しい処罰がないことで、闇の組織がひとり当たり100万円単位で取引しているというから、この悪弊は当分なくなりそうもない。中国の社会体制の歪みや膿は、各所に見られるが、いかに経済大国になろうともこういう前近代的な悪習が蔓延っているようでは国際社会で大きな顔はできないのではないだろうか。

2015年4月21日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com