3日前の本ブログに中島敦の佳作「山月記」と「名人伝」の演劇を観て、その感想とそれらの作品についてコメントを書き込んだところ、早速友人から著作権が失効した作品をネットで読むことができるとわざわざ知らせてくれた。有り難いことである。中島の作品は難しいところもあるが、短編ならネットで読むには好都合と思い、手元にない「名人伝」をダウンロードして読んだ。すでに演劇を観たし、シナリオにも目を通しているので、ストーリーと雰囲気は承知しているが、ネットとは言えやはり機微に触れる個所なんかは原文ならではの持ち味がある。読んでみて中島敦の作品らしいと改めて納得した。他にもいくつか目を通していない中島作品があるので、追い追い読んでみたいと思っている。
さて、このところ国内では安保関連法案の国会審議で、集団的自衛権行使が憲法違反かどうかで喧しい。こればかりは野党議員や憲法学者がはっきり違憲と明言し政府を追及しているのに対して安倍首相以下与党議員は、あの手この手の無理な論理を組み立てて合憲と主張している。まるで窮鼠猫を噛むである。しかし、どの角度から考えても集団的自衛権が憲法に抵触しない筈がない。長年政治家の家庭環境の中で育てられた安倍首相らは、悪い意味の政治家的雰囲気に染まった結果、縦のものを横にすることや、横車を押すことを何とも思わなくなったようだ。国家の大事に鈍感となり、それが憲法改正をやりたいが、現状では賛成議員が全国会議員の2/3を超える可能性がないために、正論を避けて姑息にも裏道から手法を変えて本丸を突くことを考え出した。それが、憲法の解釈を変えて思っている政策を強引にやってしまおうという算段である。いくら解釈を変えても憲法に楯突くわけであり、とても理が通っているとは思えない。まだまだ安倍政権による違憲騒ぎは収まる見通しが立たない。
他方、海外では16日にエジプトの刑事裁判所で、ムルシ元大統領に対して死刑の判決が下された。イスラム国家宗教指導者も死刑は妥当としていた。まだ上訴の権利はあるので、ムルシ氏は当然上訴を選択するだろう。ここで問題として指摘しておきたのは、2011年の「アラブの春」の翌12年の大統領選挙でムルシ氏は民主的に国民から大統領に選ばれたことである。だが、それも束の間で13年反ムルシ政権の大規模デモが起きて軍が介入し、ムルシ氏は身柄を拘束された。長年に亘り独裁的に権限を行使して圧政を敷いたと言われたムバラク長期政権を倒し、民主的な総選挙で選ばれたムルシ氏が軍部のクーデターによって失脚し、死刑の宣告を受けるとはあまりにも非道な現政権のやり方ではないだろうか。これは民主主義とはまったく対極にある非合法な手法である。欧米を中心に、非民主的なやり方に対して抗議の声が強まっており、シーシ現政権が考えているようにはことは進まないとは思うが、油断も隙もない理不尽な権力の交代は、それが軍の支援に頼って成されているたけにことさら非民主的で冷酷な印象がしてならない。