安保関連法案が強行採決されてから、メディア各社がそれぞれそれ以前にも増して詳細な世論調査を行っている。採決以前にも安保関連法案反対の声は日を追うにつれ高まっていた。安倍内閣の支持率も大きく下がっていたが、共同通信が行った直近の調査では衆議院の強行採決により内閣支持率は急落し、1カ月前に比べて9.7ポイントも下がって37.7%まで落ちた。内閣支持率では安倍政権発足後初めて不支持が支持を上回った。
更に衆議院での強行採決に対しては73%が反対を示した。憲法を独自の解釈で無法な行動により、国民を騙し打ちにして良心の呵責を感じない安倍首相は、憲法違反とされ、世論の反対を押し切ることまでして何とか強引にやり遂げたとの思いが強いだろうが、国民をこれだけ敵に回して政治家としてどれほどプライドを堅持できるのか、また自ら責任感と満足感を抱くことができるのだろうか。しかもこの様子では、今後とも反対運動が広がる雲行きである。
一方、国民の8割が法案の中身が理解できないという中で、首相は強行採決後にこれから国民に納得してもらえるよう丁寧に説明していくなどと子どもじみたことを言っているが、本来国民への説明は採決の前に行うべきことではないか。
一層問題を複雑にしているのは、同盟国の軍隊が危険に晒された有事の際は、彼らを後方支援するため自衛隊の海外派遣を考えていると語ったことである。この件に関してそれでは海外派遣に歯止めがないとの野党の質問に対して、安倍首相がこの有事とはホルムズ海峡の封鎖、及び近海の機雷掃海に限ると明確に応えたことである。そのホルムズ海峡の封鎖については確かにアメリカから自衛隊の派遣を要請された。
しかし、先週イラン核協議について関係国の間では、漸く包括的共同行動計画で問題解決のための最終合意に達した。合意の履行が確認されれば、EUはイランに対して核関連の制裁を解除し、アメリカも制裁解除して、核問題に関する国連安保理決議は制裁国側から解除される。こうなると首相が目論んでいる自衛隊の同盟軍への後方支援、つまり首相が述べた自衛隊のホルムズ海峡周辺への海外派遣の必要性はなくなることになる。それではホルムズ海峡への自衛隊派遣の可能性が当面なくなったことを踏まえると安保法制上の自衛隊海外派遣はないということになる。この点で安保関連法案の肝心な条項が無意味で不必要だということになる。その辺りの整合性のある応えを安倍首相自身から聞きたいものである。これについて安倍首相は承知のうえで知らん顔をしているようだが、首相流に丁寧に国民に説明するべきである。この点首相は極めて無責任だと言わざるを得ない。
それにしてもメディアもこの件についてはまったく何のコメントも出そうとしない。朝日を始めとしてメディア各社は問題をもっと掘り下げ追求し、問題点を指摘して、自衛隊海外派遣が想定されるケースと、首相の言い分と言質を質すべきではないか。