親しくしていただいている小中陽太郎さんが昨年12月に出版された「上海物語~あるいはゾルゲ少年探偵団~」を先日読み終えた。裏表紙に「ブケリッチ母子を会わせてくれた人へ」と書いていただき署名もしていただいた。ブケリッチ母子とは、2006年に他界された母淑子さんと子山崎ブケリッチ洋さんのことである。父はゾルゲと地下活動を行ってゾルゲ事件の中心人物のひとりとされているブランコ・ド・ブケリッチである。ゾルゲ事件に絡んだエピソードや人物が戦前から最近に至るまでのプライバシーが面白おかしく紹介されている。本書で直接知っている登場人物は、山崎さんと著者の小中さんだけだが、間接的に知っている人まで含めるとかなりの人がいろいろな場面で登場する。その点でも大変興味深い。
ストーリーは、長きに亘ってゾルゲ事件に関わった人たちが、戦前の上海から日本、戦後の中国、韓国、欧米、南米コロンビアまで小中さんの実体験に沿うように展開される。ただ、展開が速く、人物も果たしてこの人は誰だったかなと考えながらストーリーを必死に追いかける有様である。
戦前上海で執筆活動していたアメリカ人のアグネス・スメドレー女史とゾルゲ、或いは尾崎秀実との複雑な男女関係までは知らなかった。また最後の章「セルビア大使館の哀悼的想起」に、品川の駐日セルビア大使館で行われた故ブランコ・ド・ブケリッチを偲ぶ講演会のことが書かれている。山崎さんから案内がありゼミの仲間3人を誘って大使館へ出かけた。その折の珍しいエピソードも書かれている。このセルビア大使館はかつて「ユーゴスラビア大使館」と呼ばれていた。山崎さんの母上は得意の語学力を生かしてここで定年まで勤め、山崎さんを大学卒業まで女手ひとつで育て上げた。大学卒業後山崎さんは母1人子1人の母を残して父ブケリッチの母国、当時のユーゴスラビアへ渡り今日までベオグラードに在住している。
山崎さんは日本へもしばしば里帰りするので、その都度会って食事をしたり、箱根や鎌倉など東京近辺の観光地を散策したりして親しく交流を続けている。彼をゼミの仲間にも紹介してお互いに広いお付き合いを楽しんでいる。小中さんにも山崎さんを紹介したことによって、勝手を言わせてもらえば、この書籍も部分的に深みのある内容になったのではないかと思っている。
ストーリーは主語があちこちに飛ぶので、追いかけるのが大変だが、気楽に読めるあの暗い時代のノン・フィクションだと思う。今日ゼミの友人たちにもメールで勧めたところである。