マス・メディアでもてもての寺島実郎・出版記念講演会の案内状をいただいたので、出かけた。会場の日本工業倶楽部ビルも、東京駅丸の内口前に建つ中々由緒のあるものらしく、鹿鳴館風で重厚な感じだ。こういう明治、大正期の建物はどんどん姿を消していく。銀座にある交詢社ビルだって、古めかしかったが中々趣のある雰囲気が気に入っていたが、いまは高層ビルに建て直されて単なるビルに変身してしまった。
寺島氏は、単独で17冊目、共著も入れると25冊目というのだが、これだけ多忙を極めながら、いつも斬新な知識と資料を背に、新しい切り口でずばりと解説するところが小気味よく、それがマス・メディアに大受けするところだろう。私もいつも論理的に筋が通り、分析力に裏打ちされた寺島理論には感銘を受けているところである。講演に先立ち、3人のゲストがお祝いの挨拶をされた。最初は新著「脳力レッスンⅡ」の発行元・岩波書店山口社長、次いで朝日新聞社・箱島元社長、3人目がアジア開発銀行等で活躍されたアーサー・ミッチェル氏だった。それぞれ個性的な挨拶の中で、寺島氏の類稀な調査力に感心しておられた。山口社長が解説された「脳力とは、物事の本質を考える力」になるほどと思った。前著「脳力レッスン」は、情けないことに購入しておきながらまだ読んでいないが、寺島氏の話を聞くと、充分な資料を集め、分析し、現地を調査して、寺島流理論を生み出していることに頷ける。
寺島氏の講義で、事前に配られたレジュメと実際の話を併せ考えても、新聞やテレビでは教えてくれない数字がいくらでも出てくる。その中でも「大ロシア主義」とか、中国本土だけではなく、香港、台湾、シンガポールを含めて中国人社会全体を構成する「大中華圏」の捉え方と分析には、目から鱗である。そして、氏が強調したのは、「現場主義・現場感覚」と「国内の知的基盤の劣化」だった。寺島氏は自ら産官学を実践しているという。産は三井物産で、学は早大客員教授として、官は日本総合研究所会長としてやっているが、元気な時にやらなければならないと思っているのは、この知的基盤の強化であり、それは官的な財団のシンクタンクではなく、さりとて野村総合研究所のような民のシンクタンクでもない。それらは限界があるという。氏の狙いは、本来目指すべき制約のない、成果が上がる中立のシンクタンクである。ひもつきではない、ブルッキングス研究所のような組織を立ち上げたいとつい本音を漏らした。
終わって会場を変え懇親会に移ったが、顔見知りの人もいて、知研関係者では久恒理事長、さがみ信金の石川均氏、エーザイの浅尾悦子氏、それにふるさとTVの角広志氏にもお会いした。多摩大学名誉学長・野田一夫先生には以前にもお会いしているが、寛いだところで冗談半分に、寺島氏の理論と弁舌は素晴らしいがお話する時の態度が少々お行儀が悪いですねと話したところ、なるほどと言って直接本人に話してみたらと仰った。感想を率直に話したまででそんな気はないので、それでおしまいにしたが、野田先生もとても洒脱で愉快な人である。
帰り際に軍事評論家・アナリストの小川和久氏にお会いして立ち話をした。小川氏は1月にトラベル懇話会で旅行業界のお歴々を相手にお話をしたということだった。私も現役のころ2度ほど講演をした会である。小川氏は旅行が好きで、出張でもすべて自分で旅程を組むと言っておられた。テレビで見る通り、とても感じのよい方だった。