多摩大学の現代世界解析講座で聴講を楽しみにしていた元ロシア特命全権大使・都甲岳洋氏の話を伺った。都甲氏は1934年生まれで、41年間外務省に勤めその間シンガポール、トルコ、ロシア等の大使を務めた後、三井物産戦略研究所に入り現在は名誉顧問を務めておられる。司会者も現在日本でロシア問題に精通する最右翼のひとりだと紹介された。今日は「ロシア新体制の政治経済展望」と題して、冷戦時代のロシアから、プーチンとメドベージェフ2頭体制のロシアについて長いロシア滞在経験から広範に分析された。
しかし、辛辣に言わせてもらえば、やや期待外れだった。プーチンと4度も会って話したことがあり、大使時代を含め長いモスクワ生活体験から、さすがと思われる知識を披露された反面、気になったのは、1時間半近くに亘り延々と一本調子で話をされ、ジョークも少なく息を抜く間もなく、聞くのには疲れるスピーチだった。更に数字を述べてもAV機材を使用せず早口で話すのでメモする間もなく、話術もあまりお上手でなく時折口ごもることもあって、前方で席を占めた学生たちも居眠りする姿が見られた。
ただ、ロシア問題の専門家であるだけに内容は豊富で話に淀みがない。ロシアはエネルギー大国として経済が安定し、消費が拡大し輸入が増大している。すしバーも含めると日本食店が1000軒もあり、日本車の販売も鰻登りに伸びてトヨタ、日産、三菱が工場を建設して進出する予定である。だが、最近になってアメリカに端を発した金融不安とグルジア紛争がロシア経済の先行きに不安を与え出した。IMFの観測でも当初のロシア経済成長予測を2008年は7.7%から7.0%へ、2009年では7.3%から5.5%へ下方修正したという。
意外だったのは、日本でもしきりに騒がれたサハリン2の天然ガス・プロジェクトで、環境問題を強引に持ち出されてロシア流交渉に振り回された。結局ガスプロムが51%の持ち株比率で、残りをシェル、三井、三菱が保有することになったが、都甲氏はそれが結果的にはロシア政府が資金面で関わることにより、反って安心出来たと言っていたのが印象的だった。だが、本当にそうだろうか。本件に関して日本サイドから賛成論を聞いたのは都甲氏が初めてである。私はこのプロジェクトへのロシア政府の関わり方があまりにも利己的で、過去の努力や実績をないがしろにする卑劣なやり方だと憤慨したものである。
また、都甲氏は質問に応える形で、北方領土問題で過去に訪ロした田中首相、小沢一郎氏、鈴木宗男氏らが関係した個々の返還問題に触れ、日本政府は終始一貫4島一括返還以外は、ロシアとの返還交渉に応じないと断言した。傍から見ると外務省の立場は、いつもロシアの朝令暮改に振り回されているような気がしてならないのだが・・・・・・。
外務省の立場からではなく、もう少し本音を言ってもらえればと感じたのはひとりよがりに過ぎるだろうか。
終って八木哲郎・知研会長ともども久恒啓一教授の研究室へお邪魔していろいろ話を伺う。天井が高く広々とした部屋である。現在久恒教授が取り組んでいるのは、多摩大学を関係機関、施設を含めた「学びの志塾」と捉え、その全体像の図解作成であり、その啓蒙であるが、そのお考えをじっくり伺った。明るい展望を生き生きと語られた。