高級官僚の怠慢と不誠実さが露わになったのが、国後島への上陸断念で子どもの使いのようにそのまま根室港へ舞い戻ってきた「ビザなし交流」事業のお粗末である。これはプライドばかり高くて、現場に立って考え汗を流すことをしない外務官僚の典型的な手抜きとしか言いようがない。
この北方4島事業は遅々としてはいるが、曲がりなりにも17年の間細々と続いてきた、堅実な国家事業であった。それがなぜこんな情けない結末になってしまったのか。ことは、ロシアが要求する「入国カード」に記入しなかったというだけの瑣末な手続き上の問題ではない。
頓挫した背景にはロシア側の国内事情もある。2002年のロシア連邦法の改正で出入国カードの記入が義務化され、その管理機関である移民局が、ロシア外務省に対してビザなし交流を特例として認めることは連邦法違反であると抗議をした。この政府内の対立の結果、ロシア政府内が不穏な空気になり、ロシア政府から日本の外務省に対してこの先の入国承認事情について知らせてきた。しかし、わが外務省はこの微妙な空気に鈍感でさほど重大視しなかった。ロシア政府から難しい国内事情の通知があったにも拘わらず、外務省は移民局から妨害的なメッセージがないとして、確認をとるとか、じっくり腹を割って話し合うという手までは打たなかった。敢えて厄介で堅実な交渉を行わなかったのである。はっきり言って手を抜いたのである。軽率であるし、誠実さのかけらも感じられない。外務官僚は自分らの仕事は何だと思っているのか、つまりこの事業のために彼らはまったく動かなかったのだ。
普通でもロシアという国は自国のためには、いかなる狡猾な外交でも展開するしたたかな新帝国主義国家である。こんなロシアの体質を熟知している筈の外務官僚が、直接自分を利することのない余分な?業務には手を出そうとしない。何度確認を取っても心配な国なのにである。そんな当たり前の知識も常識も分っていない。それが威張ることだけは一人前で、「渡り」を繰り返している官僚体質なのである。外務省は今後この難問をどう解決しようというのか見当もつかないが、高級官僚なんて国を毒することはやっても国を利することはほとんどやらない。遠からず旧島民の墓参の希望も叶わなくなってしまう。どうしようというのだ。われわれは官僚の怠慢と利己主義をしっかり肝に銘じておく必要がある。