昨夜突然ビッグ・ニュースが伝えられた。何と天皇陛下が「生前退位」のご意向を漏らされたというのである。今年82歳になられる天皇は数々の公務を抱え、かねてから健康問題が懸念されていた。とかく皇室関係の情報は密室的色彩が濃く、その報道も出所、及びどういうルートで伝えられたのかはっきりしないことが多かった。
今回のビッグ・ニュースも本当のところがよく伝えられていない。天皇の本心がストレートに伝わってくることもあまりないように思う。天皇ご自身は、近年2度に亘る手術を受けられたこともあり、肉体的な疲労感を覚えておられるようだ。更に年齢的な点からも記憶力や難聴の不安も抱えておられる。以前から公務から解放されたいとのお気持ちがあったようで偶々情報が漏れたにしても、その気持ちを汲み取って直ちに対応する姿勢が取れないものだろうか。
世界的にも高齢を理由に、いずれも2013年にオランダのベアトリックス女王が長子のアレキサンダー国王に、ベルギーではアルベール2世が同じく長子のフィリップ王子へ譲位した。またローマ・カトリック教会では法王ベネディクト16世がフランシスコ教皇へ譲位して退位した。現在も頑張っているのは、4月に90歳の誕生日を迎えられたイギリスのエリザベス女王と、88歳のタイのプミポン国王ぐらいのものだ。しかし、プミポン国王は最近ほとんど病院暮らしである。それらの点を考えても天皇の現在の公務がやや過重な負担になっているのではないかと思う。
皇室典範には、生前退位について何らの表記も規定もない。もし、生前退位を実施するならまず皇室典範を改正する必要がある。憲法第1条には、「天皇は日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は主権の存する日本国民の総意に基く」と規定されている。この日本国民の総意をどう解釈したら良いのだあろうか。皇室典範の改正には、これまで何度かその機会があった。その典型は、かつて女系天皇を容認する条項であったが、秋篠宮家に男児が誕生したことにより、女系天皇問題は置き去られてしまった感がある。生前退位の場合、天皇に即位する皇太子に公務をどの程度継承するのか。摂政を置くことにより、一部でも代行して解決できないのか。更に平成に代わる新しい年号も決めなければならない。普通の法律とは異なり、皇室に関することになるとどうしても神経質にならざるを得ず、つい及び腰になる。
昨夕のテレビ放送や今朝の新聞にはトップ・ニュースとして伝えられたが、この問題を関係者は正面から真剣に取り組む気持ちがあるのかないのか、どうも政府、宮内庁はあまり積極的ではないように見える。
問題の性質上コメントは難しいとは思うが、昨夕NHKニュースで報道された後会見した宮内庁次長は報道されたような事実はないとにべもない。夕刊各紙を見る限りモンゴルへ旅立つ前に羽田空港で記者会見した安倍首相は、「様々な報道があることは承知しているが、事柄の性格上コメントは差し控える」と述べたり、その留守を預かる菅官房長官の如きは、生前退位の制度を創設する皇室典範の改正については考えていないし、政府として宮内庁に事実関係を確認することもないとまったくつれないのである。
これでは天皇が漏らしたことをまともに取り上げようとしないと言っているようなものではないか。これでは、天皇陛下のご苦労を慮る気持ちがないということにならないか。あまりにも礼を失してはいないだろうか。