福井県大飯原発再稼動について、何やらただならぬ暗躍と政府筋からの陰湿な圧力があったようで、急速に安全性と危険性を憂慮した反原発の動きが萎えてしまった。そもそも空気が変わったのは、関西広域連合が限定期間付で再稼動を容認してからである。中でも大飯原発から立地的に最も遠い和歌山県の知事が、最初に積極的に容認すると発言した辺りからである。現状では再稼動を疑問視して、最も慎重だった京都府と滋賀県両知事も追認するように夏の電力最大消費時期のみ再稼動を容認すると発表した。
これまで再稼動に反対を唱えていた腹に一物の橋下徹・大阪市長の豹変は予想されていたが、比較的強硬に反対していたと思われていた山田啓二・京都府知事と嘉田由紀子・滋賀県知事の後退というより、変節は理解し難いと考えていたところ、インターネット上で産経新聞朝刊が「『反原発』強硬知事が‘変節’した理由」として苦しい内情を赤裸々に解説している。
一言で言えば、両知事は経済界から総スカンを食らったことのようだ。特に滋賀県では県内の19首長らは、嘉田知事が山田知事とともに政府に突きつけた脱原発依存社会への7項目の提案が事前に話がなかったとして強い不満を述べ、彦根市長の如きは謝罪まで要求する有様である。知事が真意をいくら説明しても市町村長らとの距離が縮まることはなかった。さもありなむ事実を知ったが、滋賀県は産業用の電力消費が多く、関西電力管内の産業用電力消費量の割合が約38%であるのに対して、滋賀県のそれは約58%が産業用だという。その典型は県内第2次産業の割合が41%で、全国第1位の企業城下県だそうだ。これでは、知事も県内経済界の声を無視できなかったのに違いない。
嘉田知事の「節電は電気料金が節約できるため、マイナスばかりではない」とか、「経済は大事だが、原発事故で住めなくなったら何もならない」の真っ当な意見はどこかへ押しやられてしまった。理想や理念は素晴らしくても、例え危険性を伴っても経済のパワーには勝てないということだろうか。経済界に何ら寄与していない現在の自分自身が、原発反対を唱えるのも経済界の一部に言わせれば「原発再稼動に口出しするな」ということになるのだろうか。
しかし、ちょっと待ってもらいたい。現状では原発再稼動は関西エリアだけがGOサインを示した。その他のエリアでは節電を実行しようとしている。関西以外では現在のところ、この夏の暑さに対して我慢に我慢をして耐え抜いて最盛期の2ヶ月を乗り切ろうとしている。そこには無駄を排除しようという純真な気持ちも芽生える。それよりこれでは折角節電しようと考えていた関西人の気持ちだって拍子抜けではないか。関西広域連合には、経済優先のあまり「もったいない」の気持ちを斟酌しようとの気持ちが感じられない。経済力がすべてを支配するとの思い上がった気持ちがあるのではないか。
関西経済界のお歴々に質問を呈したい。ならば、原発稼動によって排出される使用済み核燃料をどのように処理しようというのか。稼動すればするほど今後10万年もの長期間に亘って核のゴミが溜まり、処理する方法もなく、置き場所もなく、地上で危険に晒されたまま大金を投資して当てもなく監視していくのだろうか。
各首長には、経済団体の支援がなければ選挙で当選もおぼつかないと聞く。結局いくらきれいごとを言っても、自らの利己主義から国民を放射能の危険に晒すことに協力しているだけではないのか。