朝起きて窓の下を見ると昨日あれだけ賑やかだった市場がテントごときれいさっぱり撤去されていた。安息日だった昨日一日だけの青空市場だそうだ。
10時にホテルロビーで待っているとムハマッドさんが車で迎えに来てくれた。早速ダウンタウンの中心街にある古代ローマ劇場を見学する。忘れもしない懐かしい劇場である。あの時はこの前で写真を撮った。通りを隔てて建っていた「ホテル・アルカサール」は完全になくなっていた。ムハマッドさんに聞くと、この通りに面した古い建物はほとんど壊され建て直されているという。実際残っている小さなホテルは建物自体が今にも崩壊しそうなくらい危ない建物だ。
身柄拘束された現場の正確な場所は新しい住居も建設されてとうとう分からなかったが、その周辺をぶらついて丘のスポットを見当つけて登った。とても正確とは言えないが、当時の状況を完全には思い出せない以上大体の場所で納得するより仕方ない。街の全体的な感じとしては戦争当時の面影があったので、まあそんなところで我慢するしかない。
当時は怖そうな十数名の兵士にあっという間に銃を突きつけられたが、今日は平和な中であどけない子どもたちに囲まれた。やはり現場に来て青春の一駒を思い出し、本当に良かったと思っている。ガイドを含めて知り合ったヨルダンの人々はお世辞もあるだろうが、私が当時の体験談を話すと強い興味を示してくれ、細かいことまで聞いてきた。彼らにとって第三次中東戦争は歴史上大きなでき事であるが、現実にそれを知っている人はヨルダンでも少なくなっている。やはり歩いてみると当時とは異なった臨場感を感じる。感慨深かったし来てみて、環境はがらりと変わったが、気にかかっていた45年間の空白を埋めてくれるものだった。
ダウンタウンで衣料洋品店を営んでいるムハマッドさんの従兄弟の店を訪ねて、周辺の様子を聞いた際、彼の机の上に置かれた新聞が気になった。文字はアラビア語だが、大きな写真は大飯原発再稼動反対のデモの光景である。出発前にそうなるのではないかと悪い予感がしていたが、結局野田内閣は再稼動へ踏み切ったようだ。原発問題は今では日本だけの問題ではなくなっているのだとの認識が少し足りないように思う。ヨルダンと日本のサッカーのワールドカップ最終予選で、6-0の一方的な負け方をしたヨルダン・チームのだらしなさを大げさに嘆いていたのも、面白かった。
ムハマッドさんが展望の良く効くシタデルへ車を走らせてくれ、アンマンの市街をパノラマ形式で楽しむことができて、45年ぶりに青春時代の危なかったシーンを改めて感じて感慨無量である。今日一日の印象は多分一生忘れないだろう。
ベドウィン族の食事を提供するレストランで昼食を終えてから、空港へ向かったが、ここも出国のセキュリティ・チェックは厳しい。漸くアブダビ行のフライトに乗って帰国の途へ就く。