このところシリア国内の政治的、社会的混乱と迷走は留まるところを知らず、遂に独裁者・アサド大統領自身が戦争状態に入ったことを認める発言を国内外に対してはっきり行った。大統領はつい最近までは反政府勢力によるテロ行為だと国際社会の批難に対して開き直っていたが、現実にあまりにも凄惨な事態を前に戦争状態を認めざるを得なくなったようだ。このところデモやテロ騒ぎを通り越して、シリアはすでに内戦状態に突入して、国連ではアナン前事務総長を特使として現地へ派遣して内戦停止のために活動させていた。シリア国内では国連停戦監視団も常駐していたが、危険過ぎるとして退去を余儀なくされ、監視団はシリアの加熱する戦争状態を監視できるような状態ではなくなっていた。
一方で、数日前トルコ空軍機がシリア洋上で撃墜され、シリア反体制派に同情的なトルコ政府は、シリア政府に対して強く非難している。この事件も欧米諸国のシリアに対する態度を硬化させている。本来北大西洋条約機構(NATO)に所属するトルコへの攻撃に対しては、同盟国が協力して反撃することができることになっており、NATO軍が連携してシリア国内を空爆してもおかしくないのだ。今回はNATO軍が自重して敢えて強硬策を取らなかったが、一触即発のムードである。下手をすると、いつ戦火が拡大して本格的な戦争にならないとも限らない。
ここで問題にしなければならないのは、シリアの背後にいるロシアと中国の出方である。両国は早くから国連安保理事会でも、徒に他国に武力介入するのは内政干渉に当たると主張して、国連軍がシリアに介入することに強く反対していた。だが、両国の言い分を受け入れ、何らの手を尽くさない内に、戦争は一層悲惨な結果をもたらし、今も毎日多くの犠牲者を生んでいるのである。
ロシアと中国の筋の通らない主張の背後には、ロシアはシリアからミサイル基地を提供され、中国もシリアに武器供与の支援を続けている後ろめたい事情がある。いつも利己主義を貫きながら、覇権主義を拡大させ、将来の権利獲得・擁護を企んでいるのだ。
アサド大統領がはっきりと戦争だと公言した以上、国連は遅滞することなく今すぐにも緊急安保理事会を招集して果断的に結論を出すべきだと思う。
幸い30日にジュネーブで開かれる安保常任理事国やシリア周辺国の外相級会合で、アナン前国連総長が「暫定統一政府」の設立を提案する。明言してはいないが、アナン氏はこの暫定統一政府には、アサド大統領らを排除する意向のようだ。ロシアや中国は決して横車を押すようなことがあってはならない。