今朝の朝日新聞一面に次のような記事が掲載された。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表した調査結果によると、戦争の死者の数はこれまで伝えられていた数字より遥かに多いという事実である。実際死者の数が約2倍にも増えたことに驚いた。
これまで国会答弁や、全国戦没者追悼大会で述べられていた「310万柱」という説得力があった戦没者数が、何と大幅に修正され、実は約626万人と推定されるということである。戦後のドサクサに紛れて戦没者数は、確実な数が分からなかった。政府が最初にこの310万人と言い始めたのは、1963年私が大学を終え社会人になった年であり、東京オリンピック開催の前年でもあった。以降今日までこの戦没者数が信じられてきた。その310万人の内訳は、軍人・軍属・準軍属が230万人、外地で亡くなった一般国民が30万人、国内で空襲などにより亡くなった一般邦人が50万人と言われてきた。
ところが、社人研の更なる調査によると実際に日中戦争と太平洋戦争で亡くなった日本人の総数は、韓国、台湾、樺太などにいて亡くなった人を加えると約626万人であることが分かった。これは日中戦争では国の死亡統計が存在しなかったからだと推定される。しかし、戦後80年を経て、今更戦没者が増えたとしても、遺族の行方も不明な点が多く、賠償はないにしても最早名誉とされる靖国神社などへの報告は為されないだろう。今後国会答弁や、全国戦没者追悼大会では626万人とはっきり言うのだろう。
戦時中旧日本領だった、台湾、韓国にも同じような悲劇があった。台湾人も日本人として軍事徴用され、戦地で戦い、多くの犠牲者が出た。その犠牲者の数は3万人と言われている。これらの点も政府としては軽々に扱うというわけには行かないだろう。
私も陸軍航空部隊の現地戦没者慰霊祭や、太平洋戦争遺骨収集団などの現地における慰霊際儀式など旧戦跡地で、事あるごとに尊い310万柱という言葉を何度となく聞かされてきた。それでもこれはこれとして、新たに判明した日中戦争と太平洋戦争の犠牲者に対する哀悼の気持ちは変わるものではない。しかし、626万人というこの数字があまりにも大きいので、ショックを受けている。
今一番気がかりなのは、日本人と言わず世界中の政治家らが、本当の戦争の怖さを知らない世代になり、戦死者が出る戦争を恐れていないことである。戦争は実戦経験、或いは臨場感で戦争を感じたということでもなければ、戦争の恐ろしさが実感としてピンとこないものだ。現在日中間でお互いの不信感から、両国間に緊張の度合いが高まり、険悪な気配が生まれつつある。もちろん立場によって感じ方はいろいろあるが、それでも、高市首相の台湾有事発言に、中国政府は台湾海峡に他国の軍隊が侵入するなら対抗手段を考えると態度を硬化させている。高市首相、習近平国家主席ともに戦後派で、本当に戦争の恐ろしさが分かっていないことは言える。まるでゲーム感覚である。あまりスッキリしないが、しばらくこの問題から目を離せない。