今年はクマの出没が目立ち、以前は北海道か、東北地方の一部にしか見られなかったが、近年は本州にも広域的に姿を現すようになった。特に今年は出没情報が連日のように伝えられ、東京都内でも奥多摩地方でクマが見られ、かつては考えられないような事態になってきた。今朝も岩手県北上市の瀬見温泉で、温泉宿の従業員が温泉風呂を掃除していたが、扉を壊され血痕が残り、従業員の姿が見られない。クマに襲われたようで、遂にそのまま従業員の姿が見えないままである。
クマも動物園の檻の中で愛らしい生態を見せたり、人間に危害を与えないようなら愛される動物だが元来猛獣であり、人間社会に近づくと余りにも攻撃性が強く危険なため警戒され、クマが出没するエリアではうっかり外出も出来ない。
2024年度上半期のクマ出没件数は、全国でも過去最多の15,741件もあった。今年は更にペースが上がり、4~7月だけでも12,067件で悠々昨年の出没数を追い越す勢いである。テレビでもしばしばカメラ画像が写されるが、数日前に秋田県大仙市内でひとり歩いていた82歳の女性が、1頭のクマに襲われる映像が流された。幸い顔面に傷を負いながらも逃れたが、ぞっとするシーンだった。今年は人身被害が多いらしく、4~8月の間にクマの襲撃によって死亡した人が5人もいる。クマ出没の大きな原因は、猛暑のためクマの主食であるブナの実が凶作で、餌を求めたクマが人里に下りて来るようになったかららしい。今後晩秋から冬にかけて、特に東北地方などでは人災が懸念されている。
学生時代に山岳クラブの仲間とよく山へ入っていたが、もしクマに出会ったらどうするか、などと面白半分に話し合ったことが昨日のことのように思い出されてくる。その時の結論は、極力近くの木によじ登るということだった。もう70年近くも昔の話である。
私自身も野生のクマを目撃したことはある。もう40年ぐらい昔のことであるが、バスでカナディアン・ロッキー山麓のカルガリー駅構内に近づいた時に、駅の中へ入って行こうとする1頭の大きなクマを見つけた。しばらくバスの車内に潜んでいたことがある。
凶暴な野生動物に突然対面することになったら、普通ではどう行動したら良いか分からない。こんなケースもあった。ブラジルで捕獲されたワニが突然飛び上がり向きを一回転し逆になって頭を私の目の前に突き出されて驚いたことがあった。南アフリカでは、サファリ公園内でジープの最前席に座って最後部のガードマンに、もしライオンに嚙みつかれたらどうしたら良いかと尋ねたところ、そのままじっとしていれば俺がこの銃で撃ち殺してやると言われ、思いも寄らない返答に驚いたことがある。しかし、現実に一番びっくりして怖いと思ったのは、京都市内に住んでいた当時、中学校卒業直後の春休みに仲の良かった友人と2人で嵐山近くの松尾山中で、不意に猟師に追われた手負いのイノシシに追いかけられた時である。一本道を夢中で逃げる途中で友人がここ(擁壁のような土手)を昇れとの大声に、咄嗟に擁壁をよじ登って難を逃れたことである。「猪突猛進」の言葉通り、イノシシはそのまままっすぐ走り去った。
都市で滅多に獰猛な動物などに出会うことはないが、今それが現実になりつつあるというから怖い。仮に歩行者天国の銀座に、突然クマが出没したらどんな狂乱状態になるだろう。とにかく猛獣は怖い。自治体もクマ被害防止対策に頭を痛めているようだ。